BiSH的高速悲壮楽曲群シリーズの第2回
第1回はこちら↓
BiSH的高速悲壮楽曲群01 - 草加小話
BiSH的高速悲壮楽曲群は、BiSHがいた事務所WACK所属のグループに多く見つけられる。なぜならば「オーケストラ」を生んだ松隈ケンタがWACK所属グループの曲をガンガン作ったからだ。
第1期BiS「primal.」
作詞:BiS、作曲:松隈ケンタ。2011年。BiSHの「オーケストラ」よりも古い曲。「オーケストラ」の影響力は過去にも及ぶのだ。
BiSは2010年にプー・ルイとプロデューサーの渡辺淳之介を中心に結成されたアイドルグループだ。
2011年7月27日、モノノフ(ももいろクローバーZのファン)たちはTwitterでももクロのゲリラライブの場所についての情報交換をして、ついに場所をつきとめ新宿駅東口前のステージに集結した。平日なのに駆けつける熱いモノノフたちの前で玉井詩織は「ここが、この場所がアイドル界のど真ん中だ!! いいかお前ら!付いてこーい!」とアジテーションした。
このももクロの動向をBiS運営も探っていた。ももクロのゲリラライブが終わり、熱心なアイドルファンが集まっている絶好のタイミングでBiSが路上ライブを決行した。ゲリラライブにゲリラライブをしかけたのである。メタゲリラライブだ。こうしてBiSはアイドル界のど真ん中の端っこに自らを押し込んだ。この1件でBiSという名前とそのヤバさを知ったモノノフは多い。僕もだ。
primalと言えば、イギリスのロックバンドPrimal Screamを思い出す人が多いだろう。このバンド名は日本語にするなら「原初の叫び」となる。「プライマル・スクリーム療法」という精神療法があるという。幼少期に生じたトラウマに起因する苦痛や困難からの開放のために叫ぶ、という療法。ジョン・レノンの「マザー」は「プライマル・スクリーム療法」の実践だ、という説があるらしい。
BiSの「primal.」は叫びこそないが、過去の傷と今と未来の間を揺れ動く不安定な心情が歌われている。
※先ごろロンドンで大森靖子、プー・ルイ、古正寺恵巳が歌った「primal.」には叫びがあった。
さてこの「primal.」につづいてBiSHの「Primitive」(2016年)、そしてGANG PARADEの「Priority」(2022年)が発表された。WACKの「Pri」シリーズだ。
「繰り返す思い出は 忘れられない 傷残してんだ」BiS「primal.」
「繰り返す思い出に僕は 何色で染まっていくの?」BiSHの「Primitive」
「振り向かずに 駆け抜けていかなくちゃと 言い聞かせたのに 振り向かないことがこんなに難しいなんて知らなかったな」GANG PARADEの「Priority」
※primal:最初の・原初の/Primitive:原始の/Priority:先行・優先
どの曲も「過去のトラウマ」が歌の動機になっている。
【BiS】「primal.」 BOMBER-E LIVE
第3期BiS「どうやらゾンビのおでまし」
作詞:松隈ケンタ・JxSxK,作曲:松隈ケンタ。2019年。
BiSは3回誕生して3回解散した。第3期BiSは2019年から2025年まで活動した。第1期、第2期に負けないほどの波乱万丈と苦難を強いられた。
第3期BiSはネオ・トゥリーズの歌唱力、ハイトーンボイスが高く評価された。当時松隈ケンタが、彼女がWACKで一番高い声を地声で出せる、とYouTubeで語っていた。大サビで空高く翔ぶハモリをネオ・トゥリーズにやらせた。
しかしその評価や期待がネオ・トゥリーズを苦しめたことが、ドキュメンタリー動画で明らかになった。自分の存在意義であるハイトーンボイスによって、声帯が大きな負担を強いられた。2023年1月にイトー・ムセンシティ部とともにグループを脱退したことにつながるのだろうか。
BiSはメンバーががらりと変わり、2024年には事務所がマネジメントを停止し、あらゆる運営業務を自分たちが行う「自給自足」によって活動を続けるという茨の道を進むことになった。だがそれも続かず2025年1月に解散した。
WACKのグループの歌に頻繁に現れる「行かなくちゃ」というフレーズが「どうやらゾンビのおでまし」にも出てくる。これは第3期BiSの初期においては、1期や2期の影におびやかされながらも覚悟を決めた力強い宣言に聞こえた。しかし終盤の苦難の日々を知ってからは、BiSから抜け出して新しい世界に「行かなくちゃ」と聞こえて、ちょっと悲しく、そして明るい。
ネオ・トゥリーズは「Lan」の名義で活動を始めたが、今は休止中。イコ・ムゲンノカナタは晴れてWACKのグループ「ASP」に参加し、BiS時代よりも過激な姿でASPの先鋭化に貢献している。ヒューガーは元BiSで元NARLOWのムロ葉菜子とともに「名称非公開」というグループをスタートした。シオンエピックは颯詩音(はやて しおん)という名前で「紫陽花は降らない」という清楚な雰囲気のグループに参加して本来の持ち味を発揮している(しかも慶應義塾大学に入学しましたとのこと)。中心メンバーだったトギーの消息はわからない。
第3期BiSについては「NOTE」に書いたことがある。↓
BiSは大丈夫だと思ったこととビッグなビートとワンコード音楽。|Akira Someya
BiS / どうやらゾンビのおでまし
↓第3期BiSのそのほかの高速悲壮楽曲。
BiS イミテーションセンセーション
https://www.youtube.com/watch?v=1Lse-iShdi0
TOUCH ME [ESCAPE from BiSimulation] @日比谷公園大音楽堂 2023.1.8 / BiS 新生アイドル研究会 [OFFiCiAL LiVE ViDEO]
https://www.youtube.com/watch?v=ZpqNMGcsbVA
ASP「A Song of Punk」
作詞:松隈ケンタ・JxSxK,作曲:松隈ケンタ。2022年。
ASPは2021年結成。パンク色が強い。黒が基調となった衣装。でも明るくてポジティブ。
明るさの光源はユメカ・ナウカナ?だ。彼女は正統派グループ、アイドルネッサンスに遅れて加入した半人前のアイドル「野本ゆめか」だった。ゆめかが一人前になる前にアイドルネッサンスは解散した。ゆめかは正統派アイドルと真逆のWACKのオーディションに挑戦し、CARRY LOOSEを経てASPに参加した。
パンク色が強いグループというとBiSもそうだった。BiSは普段着パンク。ASPは衣装やメイクをバッチリキメたグラマラスパンクだ。
「行かなきゃ後悔しないように うたを歌う 誰かを救うとかそういんじゃなくて きっと 歌い続けていけたら 始まるから」
日本中のアイドルたちの願いは、歌い続けて自分の存在を知ってもらうこと。またその前に自分自身を信じ抜くこと。そのために死に物狂いになってる。
ASP / A Song of Punk [OFFiCiAL ViDEO]
↓ASPのそのほかの高速悲壮楽曲。
ASP / I wanna live [ACOUSTiC SAD ORCHESTRA TOUR FiNAL - 一触即発 - CRiTiCAL SiTUATiONS] at 日比谷野外音楽堂
https://www.youtube.com/watch?v=aG68UtT0sw4
ASP / Get New ミライ [LYRiC ViDEO]
元3期BiSのイコ・ムゲンノカナタが加入して最初の曲だ。3期BiSのLAZY DANCEを思い出すギターかき鳴らすポップな曲。作詞:Age Factory,作曲:Age Factory2025
https://www.youtube.com/watch?v=VXSlGCekGZo
EMPiRE「ピアス」
作詞:松隈ケンタ・JxSxK,作曲:松隈ケンタ。2019年。
EMPiRE、すなわち「帝国」という名前の2017年結成のWACK所属グループがあった。スクールカースト上位系アイドルだった。2022年に解散して即座に同じメンバーによるExWHYZ(イクスワイズ)がスタートし、洗練の度合いを高めている。
「ピアス」には感情のダイナミックな動きが封じ込められている。
ここに至るまでにいったい何が起こったのか。
EMPiREはデビューしてまもなくメンバーの入れ替えという苦難を経験した。
そして、中核メンバーの1人YUKAが卒業・引退を表明した。辞めるメンバーにとっても残るメンバーにとっても心に傷が残りかねない事態だ。
そこで卒業の儀式が巨大な試練と祝祭の場に仕立て上げられた。24時間イベントが2019年3月3日正午から翌4日正午までライブハウスで実施された。
もっとも24時間延々と歌い続けるわけではない。1時間のうちに何曲か歌っては特典会(握手会とチェキ会)を行う。これを24回繰り返す。
イベントの模様はニコニコ生放送でも中継された。
この動画は、24回目のステージの6人で最後となった歌の模様だ。YUKAはもう声が出ない。MAYUが一緒に歌う。移籍したYUiNAやBiSHのアイナ・ジ・エンドが応援に来る。エージェントたち(ファン)が泣く。YUKAがダイブする。
歌い終わったあと静寂が起こる。客席からすすり泣く声が聞こえる。YUKAは微笑む。彼女たちの新しい日々が始まる。ピアスは貫くという意味だ。YUKAはアイドルをそして自分の人生を貫いた。
EMPiRE / ピアス [EMPiRE presents TWENTY FOUR HOUR PARTY PEOPLE @YOKOHAMA BAY HALL]
CARRY LOOSE「When we wish upon a star」
作詞:JxSxK,作曲:井口イチロウ。2019年。
CARRY LOOSEは2019年結成。メンバーは元2期BiSのパン・ルナリーフィとYUiNA EMPiRE、元WAggのウルウ・ル、元アイドルネッサンスでWACKオーディションで合格したユメカ・ナウカナ?の4人。2020年に解散した。短い活動期間だった。
パン・ルナリーフィはその後いろいろを経てNARLOWへ。そして今は新しいグループamini。ずっと芸名を変えない。YUiNA EMPiREはWAggを経てChalcaに参加。名前はYUINAに。ユメカ・ナウカナ?はASP。
ウルウ・ルはCARRY LOOSE解散後は消息がわからない。ハスキーで低くてロックな歌声が魅力的だった。
「When we wish upon a star」はディズニー映画『ピノキオ』の主題歌と同じ曲名。日本語の題名は「星に願いを」。心に沁みる美しいメロディーの歌だ。
CARRY LOOSEはこの歌で「愛が足りないし 乾いてしょうがないから 欲しい 欲しい 星の数だけ欲しいよ」と哀願していた。
[非公式MV] CARRY LOOSE 「When we wish upon a star」
↓CARRY LOOSEのそのほかの高速悲壮楽曲。
CARRY LOOSE「にんげん」 MUSIC VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=fylHBWFh8sQ
GANG PARADE「Priority」
作詞:松隈ケンタ・JxSxK,作曲:松隈ケンタ。2022年。
2014年プラニメとして結成し、POP(ピーオーピー)への改名を経て2016年からGANG PARADEになった。現在メンバーは11人。多いときは13人いた。個性が強い大勢のメンバーたちが1曲の中で入れ替わり立ち替わりソロを取る様子はまるでミュージカル。そしてパーティー!
2020年から2年ほどGO TO THE BEDSとPARADISESの2チームに分裂した時期があった。しかしこの「G」と「P」はいずれ再結合するとわかっていた。なぜならば罰として一生GANG PARADEを背負っていくことを命じられてGとPを組み込んだ名前に改名させられた「キャン・GP・マイカ」がいるから。一生GPであるためには、一生GANG PARADEが存続する必要がある。
またPARADISES(の前期)はWACKらしくないカワイイが全開のグループだった。今活動中のGANG PARADEの別ユニットKiSS KiSSもカワイイを前面に出して、王道アイドルのように振る舞っている。FRUITS ZIPPERなどのカワイイに特化したグループの隆盛と軌を一にしたような状態だ。ちなみにメンバーのキャ・ノンはスターダストプロモーションのはちみつロケットのメンバーだった雨宮かのん。王道だった。
「Priority」は過去を振り切ろうとして必死に「今」にしがみつく歌だ。
「今しかない今は 今しかない今で 掴みたい 今度こそ」
GANG PARADE「Priority」Music Video
↓GANG PARADEのそのほかの高速悲壮楽曲。
GANG PARADE「らびゅ」LIVE初披露映像
https://www.youtube.com/watch?v=sED23r-GseM
GANG PARADE「GANG 2」MUSIC VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=YyaEby0Wu2U
GANG PARADE 『LAST』MUSIC VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=y932g_4QfOE
続く。
★当ブログのBiSH関連記事。
BiSHの「Primitive」。Primitiveな(始まりの)BiSHは不安と憧れの間で揺れていた。 - 草加小話
BiSHの「beautifulさ」。リンリンにとって美とはなにか。 - 草加小話
BiSHのスパーク。創造力に点火! 「俺」は愛と罪に満ちた言葉を生み出す! - 草加小話
BiSHの「サラバかな」によって我々はBiSHからBiSH後の世界を託されていた - 草加小話
BiSHの「ALL YOU NEED IS LOVE」。愛こそはすべて。お前らの今と過去を愛せ! - 草加小話
BiSHの「My landscape」。私の風景。私の荒野。 - 草加小話
BiSHの「プロミスザスター」は過去と未来に怯えた少女の物語だ - 草加小話
「BiSH-星が瞬く夜に-」BiSHは行かなくちゃいけない。 - 草加小話
BiSHのMonsters(モンスター)。忘れそう忘れそう忘れそう。いや忘れない! - 草加小話
BiSHの「オーケストラ」。夜空とは孤独な宇宙のことではないだろうか。 - 草加小話
BiSHは解散後が楽しみだ、と思っておこう…… - 草加小話
BiSHがブルデューの「ディスタンクシオン」の裏側を描いていた!? - 草加小話
ハシヤスメ・アツコは「BiSHの《今》を切り取ってくれたことに感謝する」と言った - 草加小話