草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

ハシヤスメ・アツコは「BiSHの《今》を切り取ってくれたことに感謝する」と言った

先日BiSHドキュメンタリー映画ALL YOU NEED is PUMK and LOVE』を観て来ました。

監督と撮影・編集はエリザベス宮地氏。

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『ALL YOU NEED is PUNK and LOVE』のパンフレット。エリザベス宮地監督とハシヤスメ・アツコさんにサインしていただいた。

BiSHとは、6人組の女性アイドルグループだ。キャッチフレーズは「楽器を持たないパンクバンド」

特徴は、激しいバンドサウンドと、そこに乗る感情を揺さぶるメロディかもしれない。
そして歌声の魅力だ。アイナ・ジ・エンドのハスキーな声は激情を、セントチヒロ・チッチの清らかな声は哀愁を表出する。その他4人のメンバーの歌唱もそれぞれ個性的だ。

とにかくBiSHの曲は異常にエモい! 音楽プロデュース担当の松隈ケンタ氏が天性のメロディ・メーカーなんだと思う。BiSHが歌うからさらによくなる。

私立恵比寿中学が「オーケストラ」を歌った様子がテレビで放映されたことがあって、それはもう感動的だったが、やはりBiSHのライブのほうが圧倒的。演劇かロック・オペラのようだ。振り付けのひとつひとつからも意味が立ち上がってくるのだ。

BiSHの曲の振り付けはすべてアイナ・ジ・エンドがやっている。

ラジオで、オーケストラの振り付けについて話していた。

あの曲で、リンリンは死んでいて、死んだのにアイナのそばにいるんだけど、アイナはリンリンに気がついていない……。

曲の後半でリンリンはアイナの腕にすがりついて泣く。

こういうのを「振り付け」って言うのか。もう舞台演出でしょう。

※もっとも「オーケストラ」は別れの歌なので、私立恵比寿中学は歌う必然性はあった。

 

注意! 以下映画のネタバレが含まれます!

 

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映画は今年の3月に行われた、WACKに所属する3組のグループ、BiSHBiSGANG PARADEの新メンバー募集合同オーディションの場面から始まる。

3組のグループからそれぞれ2人ずつのメンバーも合流し、いっしょに5泊6日の合宿をする。BiSHからはアイナ・ジ・エンドとハシヤスメ・アツコが参加した。

オーディションメンバーを、BiSH、BiS、GANG PARADEの3チームに分け、グループメンバーといっしょに早朝ランニングやダンスや歌などを競い合い、点数をつける。

オーディションメンバーといっしょに、なぜかプロとして活躍しているグループメンバーも必死で戦うのだ。

1日ごとに順位を発表し、1位のチームは3位のチームから持ち歌を1曲奪うことができる。

この勝負でBiSHは決定的な看板曲「オーケストラ」を奪われた。

BiSのプールイは泣きながら奪った。ここで決定的な看板曲を奪わなければ嘘だから。

奪われたアイナ・ジ・エンドは膝から崩れ落ちた。

合宿途中だったが、アイナ・ジ・エンドとハシヤスメ・アツコは一旦離脱してライブ出演した。

そのライブではもちろん「オーケストラ」は歌わなかった。アンコールのコールの代わりに、ニコ生で事態を知っていたファンたちが無伴奏で「オーケストラ」を合唱した。

「BiSHが歌えないなら、自分らが歌うから平気だ」とファンは言った。

ここから「オーケストラ」をめぐる物語はさらに展開するが中略……。

この映画は、監督のエリザベス宮地氏がやたら登場する。監督とメンバーとの関わりや愛憎がドラマをドライブさせるのだ。

セルフドキュメンタリー、または生け贄ドキュメンタリーというスタイルらしい。

監督はアイナ・ジ・エンドに恋してしまい、アイナを執拗に追う。その結果アイナの誠実さと熱さ、そして可愛さがどんどん浮き上がってくる。観ている人たちもみんなアイナに恋してしまうだろう。

ほかのメンバーについても、監督との距離感を見せることによって、人間性があらわになる。

監督とメンバーの関係は必ずしも円満とは言えないまま映画は進行する。

7月22日、幕張メッセイベントホールの公演が迫る。BiSHのキャリアから観たら、大きな賭け。実際ギリギリまでチケットが売りさばけなかったことがわかった。でも無事に売り切れて、公演は成功した。

映画は幕張公演のあとも、しばらくBiSHを追う。監督とBiSHの関係が良好になっていく。BiSHはみんないい子だし魅力的だなと思う。

 

映画『ALL YOU NEED is PUMK and LOVE』の上映が終わると、日替わりトークショーの時間になった。この日は、メンバーのハシヤスメ・アツコさんとエリザベス宮地監督だ。

アツコさんは監督が嫌いで、twitterでは監督のアカウントをミュートしているという(ブロックではない)。

アツコさんは「仕事に個人的な感情を持ち込む人が苦手」と言った。つまりセルフドキュメンタリーというスタイルを否定したのだ。

たしかに、BiSHだけを見たいのに監督が邪魔だとちょっと思った。

監督は窮地に追い込まれた。

でもアツコさんは最後に救いの言葉を与えた。

「本当は最後にうるっときたんです。すごい勢いで変化するBiSHの、《今》を切り取ってくれたことには感謝しています」

この言葉に監督は感激して、土下座までした。

しかしよく考えてみると、アツコさんは監督の出演場面ではなくBiSHの出演場面に価値があった、と言ったかもしれない。

つまり、やはりセルフドキュメンタリーははっきりと否定したのだ。

アツコさんの聡明さに改めて驚いた。