BiSHの「オーケストラ」(2016年)は聴くものの心を鷲掴みする強烈な楽曲だ。
BPMが高速(180!)なのに雄大で流れるような美しいメロディー。いわゆるエモい、つまり情感豊かなんだけど、「エモい」という言葉では言い尽くせない、高速ゆえにもっと切羽詰まった、悲劇的で壮大な、つまり「悲壮」感が漂っている。
オーケストラに通じる感じはBiSHの「プロミスザスター」にもある。
ただ「オーケストラ」は絶望感が強めで、「プロミスザスター」からは希望を強く感じる。
僕は「オーケストラ」を聴いてしまってから、いろんな曲に「オーケストラ」的なものを感じ取るようになった。この感じを仮に「BiSH的高速悲壮楽曲群」と名付けてみた。この楽曲群に含まれる曲を紹介していきたい。
BiSH「オーケストラ」
作詞:松隈ケンタ・JxSxK,作曲:松隈ケンタ。2016年。
発表されると、楽曲の素晴らしさとアイナ・ジ・エンドの声、そして歌唱力のヤバさに世間がショックを受けた。しかもアイナ・ジ・エンドだけじゃない。冒頭のセントチヒロ・チッチの歌声はなんと可憐なんだ。またメンバーたちの個性がまたサイボーグ009にも負けないほど多様で、解散後に花火のように四方八方に飛び散って輝いている。
そうそうセントチヒロ・チッチが歌うイントロは、物語の「その後」なのかもしれないと思った。「君」と「私」の間に起こったつらい出来事。振り返っても「今になってはずっと分からないまま」。その転倒したイントロを受けて物語の本章が歌われる。でも歌詞が難解なのが渡辺淳之介作品の特徴。よくわからないけど何か悲しい別れがあって、「オーケストラ!」と絶叫する。
そして翌2017年、「プロミスザスター」という名曲オーケストラを受け継ぐ的高速悲壮楽曲が世に放たれた。
↓ もうひとつの代表曲
BiSH / プロミスザスター[OFFICIAL VIDEO]
https://www.youtube.com/watch?v=ox8WVRnb8GA
私立恵比寿中学「春の嵐」
作詞・作曲:照井順政。2017年。
「オーケストラ」みたいな曲を作って欲しいとオーダーされて作ったと照井順政が語っている。
オーケストラは別れの歌だと言われる。2017年2月、私立恵比寿中学は大きな別れを経験した。メンバーの松野莉奈が亡くなったのだ。
「春の嵐はもう過ぎてしまったのに いまとなってはもっと強くなって この気持ちを真っ直ぐに 君に伝えたなら 私少し変われるかな?」
ラブソングともとれる歌詞だけど、松野莉奈に向けた言葉かもしれないと思った。私立恵比寿中学は変わった。明日へ進んだ。
この同じ2017年の秋にエビ中はBiSHと共演するコンサートを開いた。私立恵比寿中学は「オーケストラ」をカバーした。
B小町「SHINING SONG」
作詞作曲:田仲圭太。2024年。
「SHINING SONG」は実写ドラマ・映画版『推しの子』で登場したアイドルグループB小町のレパートリー曲。B小町メンバーはルビー(齊藤なぎさ)、有馬かな(原菜乃華)、MEMちょ(あの)の3人。
「オーケストラ」感が高い曲だ。それもそのはず、BiSHの曲の大多数を作ってきた松隈ケンタの制作チームSCRAMBLES出身のクリエイター田仲圭太が作詞作曲している。松隈ケンタの血が流れている。
歌詞の随所で映画の悲劇性に通じる死の気配を漂わせる。「最期まで進んでみよう」「生まれ変わることができたのなら再びあなたに会えること」など。でも未来を向いていて希望に満ちた楽曲。
紹介する動画はB小町「SHINING SONG」のダンスムービー。(映画「推しの子」で同曲のダンスを振り付けした人による)
Gacharic Spin「ハーフウェイ、その先へ」
作詞作曲:Gacharic Spin。2024年。
Gacharic Spin(ガチャリックスピン)は2009年結成の6人組ガールズ・バンド。楽器の演奏がみんなすごい! バカテク。ボーカルも3人でリレーして熱く歌い上げる。
人生に行き詰まり焦燥感に囚われながら、変わろうともがき動き出そうと決意する曲。3人の訴えかけるような歌声が胸に迫る。
ピンク髪のメインボーカル アンジェリーナ1/3は、高校の文化祭でギターの弾き語りをしているところをメンバーに見つけられてスカウトされた。ラジオパーソナリティーとしても大活躍している。
THE TRAINTRAINS「Over Driving 」
作詞・作曲:THE TRAINTRAINS。2024年。
THE TRAINTRAINS(ザ・トレイントレインズ)は元WAgg(ワッグ)の「愛(ラブ)」によるソロプロジェクト。
WAggとはWACK(BiSHがいた事務所)にかつてあった育成グループ(ハロプロエッグ的な)。
2022年、Wagg解散のとき解散報告ページにメンバーのあいさつ文が掲載されていたが、愛はブルーハーツの「終わらない歌」の歌詞を引用していた!
「終わらない歌を歌おう明日には笑えるように!!」
そして「音楽を信じて進む道を見つけるべく、しばらくの間修行して参ります」というコメントを最後に表舞台から消えていた。
愛は2024年にTHE TRAINTRAINSというプロジェクトを始動した。プロジェクトの名称はTHE BLUE HEARTSの曲から採っている。
ファーストアルバムは全曲THE TRAINTRAINS(つまり「愛(ラブ)」)が作詞作曲。すごい才能。
ちなみにアメリカのガールズ・バンドに「リンダ・リンダズ」というTHE BLUE HEARTSの曲名からつけたバンドがある。さて次にバンド名になるTHE BLUE HEARTSの曲はどれだ?
「Over Driving 」は分厚く格調高く突進するサウンド。チャイムの音もあいまってEMPiREの「ピアス」を彷彿とさせる。
この曲も↓
THE TRAINTRAINS 「朧月」
https://www.youtube.com/watch?v=a-5YK2sT_PI
POPPiNG EMO「Goodbye My Dear」
作詞:坂田鉄平、作曲:井口イチロウ。2021年。
POPPiNG EMOは2017年結成のアイドルユニット。演劇チームでもある。人脈的に松隈ケンタのSCRAMBLESと縁が深い。「Goodbye My Dear」は元SCRAMBLESの井口イチロウが作曲している。
井口イチロウはBiSHの「オーケストラ」の編曲、「Primitive」「My distinction」の作曲・編曲をした、BiSHのど真ん中にいた人物だ。
↓ この曲もいい!
【MV】POPPiNG EMO / 君色メモリーズ
https://www.youtube.com/watch?v=g7T2WggxECs
PIGGS「1ミリでも」
作詞作曲編曲:Ryan.B。2024年。
2010年にBiSを作った首謀者であり、WACK(BiSH、GANG PARADEなどの事務所)設立時を知るプー・ルイが、WACK退所後に新事務所を作って立ち上げたアイドルグループがPIGGS。プー・ルイはメンバーであり事務所社長でもある。
ほとんど全ての曲の作詞作曲編曲をRyan.Bが担当している。激しい曲もエモい曲も懐かしい曲も作れるコンポーザーだけど、心に響く歌詞が書ける詩人でもある。
「1ミリでも」は落ち込んで自己嫌悪に陥って何もしたくないときに、1ミリだけ動こう、と呼びかける歌。1歩じゃない。1ミリだ。それだけで未来が開ける。違う自分になれる。
↓ PIGGSのその他の高速悲壮楽曲
PIGGS / 小さな叫び [Official Video]
https://www.youtube.com/watch?v=QBw-bK8bSdM
PIGGS / フューチャー・スターダスト ("DEAR HUNTER TOUR" at EX THEATER ROPPONGI)
https://www.youtube.com/watch?v=cvlISYFC6eE
NARLOW「青霄の約束」
作編曲:東山智有、作詞:パン・ルナリーフィ。2024年。
NARLOWは2023年結成。元BiSのパン・ルナリーフィが中心となり、やはり元BiSのムロ葉菜子、元PIGGSの山下ウミ、元LADYBABYの池田菜々、元NMB48の河野奈々帆など、アイドル経験者たちからなる転生アイドルグループ。今度こそ、とメンバーたちは泥臭く活動した。やがて運営のトラブルから孤立無援になり、それでも逆境の中で歌い続けたが、2025年2月解散。そして5月、パン・ルナリーフィはaminiという新グループに参加した。それにしてもパン・ルナリーフィの容姿がどんどん妖精に近づいている。
「青霄」は「せいしょう」と読む。青空、澄んだ空という意味。
↓ 下の曲は松隈ケンタ作詞作曲。
NARLOW 「いにしえに響き続ける声」-Music Video-
https://www.youtube.com/watch?v=CgZIABUwnrk
続く
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