草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

BiSHの「beautifulさ」。リンリンにとって美とはなにか。

こんばんは。

今夜はBiSHの「beautifulさ」という曲の紹介をします。

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2016年に発売されたアルバム『FAKE METAL JACKET』に収録された、BiSHのメンバーの一人であるリンリン作詞の曲です。作曲はいつもの松隈ケンタ、編曲は田仲圭太です。

リンリンは、BiSHが6月29日に東京ドームでのライブを最後に解散した翌日にMISATO ANDOに改名してアーティスト(芸術家)に転身しました。

「beautifulさ」はライブの定番曲で、たいてい終盤に歌われます。

軽快なフォーク・ロックという感じで「消えたい 死にたい朝に」と荒んだ心理状態が荒々しく歌い出されます。

やがて独特な言葉と情感あふれるメロディーのサビが来ます。

どんなとげとげな日でも 息してれば 明日は来るんだし

「とげとげ」とは何でしょうか。自分の外側に生えているとげは、他人を傷つけてしまいます。ヤマアラシの比喩のように、親しい人にも、近づき過ぎると傷つけてしまいそうで、近づくことができなくなります。

心の中にとげがあれば常に痛いです。痛くて呼吸もつらいです。そのとげは過去に何かの拍子に胸に生えてしまったものです。記憶に居座っています。

とげは自分を取り巻く外界にびっしり生えているものかもしれません。そんな世界では身動きもとれません。生きているだけで肌は傷だらけに、血まみれになります。これはもはや地獄です。針地獄です。

このリンリンが描いた「とげとげ」という概念を、アイナ・ジ・エンドがとんでもない振り付けとして視覚化しました。両手の人差し指を交互に天に突き上げながら飛び跳ねるのです。この動作は「とげとげダンス」と呼ばれています。

BiSHのライブでは、サビの「どんなとげとげな日でも」が来ると、メンバーも客席の清掃員たちも、バンドメンバーも、ときにはオーケストラさえ指をツンツンしながら嬉々として飛び跳ねます。

ライブで高いところから客席のこの光景を見下ろしたとき、一面のとげとげにおののき、これは地獄だと思いました。ただし最高に楽しい地獄。

そして「息してれば明日は来るんだし」の「だし」という口調の軽さ!  リンリンは「明日は来るよ、何回か地獄から生還したから知ってるよ、大丈夫だよ、今は息して耐えていてね」と言っているのです。

この歌の時制は、まさにとげとげ心理状態の真っ最中。今まさに明日が来るまで息して耐えている時。その渦中をとげとげダンスで、地獄の祭りで過ごしているのです。絶望と希望はごちゃまぜなのです。ネガティブとポジティブは交錯しているのです。

泣いた後に 咲くその花は so beautiful beautifulさ

さて、泣きながら苦痛や孤独、不安に耐え切って、とうとう朝が訪れます。そのときに感じた感情は「happyさ」となりそうですね。ところがリンリンは「beautifulさ」と歌いました。「喜び」や「快さ」ではなく「美」を歌い上げたのです。曲名になっているように「beautiful」、すなわち「美」はリンリンにとって重要な概念です。

「美」は肉体的個人的な感情を超えた、精神的で普遍的な感性です。苦闘を乗り越えて涙したあとに、精神が浄化されて崇高な境地に至ったということです。エゴを抜け出して、人類全体に慈愛を注いでくれているのです。

僕たちはどうしようもなく落ち込んでとげとげの痛みに苛まれることがあるかもしれません。そのときに備えて、「beautifulさ」を聴きながら、とげとげから脱出して美の境地にいたるまでのシミュレーションをしておこう。

今飛ばしてしまった単語があります。それは「花」です。泣いた後に咲くという花。ここでどうしても2012年に発表された東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」を連想してしまいます。

「この歌は震災で亡くなった方の目線で作りました」と作詞者の岩井俊二が書いています。自分が死んだあとに何を残すことができたのだろうか、と歌われています。

リンリンは、泣いている人や苦悶している人に、涙で潤った大地には花が咲くよ、「美」を残すことができるよ、と言ってくれています。

ああ、BiSHもたくさんの美しい花を咲かせてくれましたね!

 

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