草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

辰井川をさかのぼる冒険

草加のフリーペーパー『草生人』がかつて発行していた『草生人メルマガ』の「Vol.020(2013年4月発行)」から。

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草加小話:辰井川をさかのぼる冒険(じつに 彰)

ある日、谷塚毛長川沿いに散歩していて、毛長川に水門を介して直角に接続する別の川に気付いた。辰井川(たついかわ)という。

調べたら30年ほど前に作られた人工の川だという。

1981(昭和56)年の台風24号で浸水の激しかった谷塚西部の被害軽減を含めた、第2次激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)の一つとして、1981(昭和56)年から6年がかりで開削された新しい川。(そうか事典「辰井川」より)

上の解説にある事業名の略称「激特事業」に、災害をなくそうという決意のみなぎりが感じられるような気がして興味深い。

天気のいい日、私は辰井川をさかのぼる冒険に出た。『トム・ソーヤーの冒険』みたいだ。だが辰井川の全長はたった5.4キロメートル。隣の川口市に起点があるらしいのでジョギングがてらの冒険である。

北へ北へと上流目指して辰井川沿いの遊歩道を走る。趣向の異なるきれいな橋が架けられていて目に楽しい。「辰井川十橋」と名付けられ、「草加八景」に選定されている。朱塗りの橋やレンガの橋など、立ち止まっては写真を撮った。

草加南高校の前で川が消えた。なんと川は高校の下へ潜ったのだ。いわゆる暗渠(あんきょ)。高校に沿って迂回すると川が現れた。

川の右側に広々とした緑地が広がった。池とグラウンド。柳島治水緑地という。ソフトボールの試合が行われていた。

地図を見ると、意外なことに柳島治水緑地の一部は川口市に属している。そしてここから上流、辰井川は川口市の川になる。

川幅が狭くなり、また水量が少なくなり、川底が見えたり葦などの雑草が目立ったりし始める。泥の臭いを感じるところもある。

辰井川は草加側では景観を楽しむ対象だが、上流の川口側ではもしかしたら好ましい印象を持たれにくいかもしれない。ロヂャースの脇を抜けたあたりで急激に川の向きが西へと変わる。ずんずん進むと川幅が狭くなり、川と言うより用水路になる。実際、「辰井堀」という用水路を掘削して作ったのが辰井川なのだった。

新郷東部公園という広々とした緑地を横目に見て、さらに「堀」を上る。堀に蓋がつき始め、さらに沿道がなくなり大通りから迂回しては戻るという繰り返しの末に、たどりついた。一級河川 辰井川起点」と彫られた小さな石柱。そこに川(堀)はない。道のわきに、地面に、質素にある。川口市役所新郷支所のすぐそばだ。

少々肩すかしな感じはするが、一級河川の終点から起点までを制覇した、コンプリートしたという満足感は得られた。

川口市民ははたして、この小さな起点から始まる地味な用水路が川となって草加市民を浸水から救い、またその景観が市民に憩いを提供していることを知っているだろうか。

 

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一級河川 辰井川起点