草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

北方謙三『チンギス紀』。チンギス・カンはタイムトラベラーか。

こんにちは。

最近北方謙三の『チンギス紀』をKindleで読んでいます。今11巻まで読んで、最新刊は12巻。まだまだ続く様子です。モンゴル帝国強いです。戦闘場面の描写の寄りと引きの激しいカットつなぎは手に汗握ります。登場人物たちもみんな曲者で魅力たっぷり。

さて『チンギス紀』におけるモンゴル軍の連戦連勝は、兵站(へいたん)、つまり食糧・武器などの物資の補給や後方部隊が万全だったことによる、というふうに描かれています。極めて現代的な戦争観を13世紀初頭の草原の覇者は持っていた、という設定です。

モンゴル軍は軍事力の割に兵士が少ないと敵国が訝(いぶか)っていました。たとえばモンゴルが1万の兵力で攻めてきたとして、敵国はその数倍の兵力で当たっているわけです。でもモンゴルにかなわない。眼前の兵力の背後にその数倍の支援部隊があったんですね。

モンゴルは普段から大量の馬を飼育しています。騎馬軍は必ず替えの馬を複数頭引いて敵陣へと走りました。馬が疲れるたびに馬を替えて疾駆したので、敵の予想よりも何日も早く前線に到達して先手を取った。

チンギスは鉄にこだわり、鉱山の開発から始めて、鉄の精錬所や武器や道具を作る鍛冶の工場まで建設してしまう。そのために遠方から専門家を連れてくるし、大量の職人は捕虜も含めてかき集めて育成しました。こうして鉄の鏃(やじり)を大量に作りました。弓や弦も工夫し、モンゴル軍の矢は敵国の矢が届かない射程から飛んできて、鋭い鉄の鏃で高い殺傷能力を発揮しました。

野営すれば豊富な食糧があります。逆に城攻めでは敵の兵站を断つ作戦を執拗に取るのです。

自前の地図を随時更新して戦略を練りました。法律の必要性に気づき研究し制定しました。道を拓き各地に駅を建設し通商を盛んにして財政を富ませ、国力を強くしました。病院を建てて医療従事者を育成しました。ほかにもたくさん。こんな先進的な国に周辺国はかなうはずがないです。

チンギス・カンは自分の頭の中から生まれたことを強引に実行してきました。周囲の者たちにはチンギスの狙いが最初わからず、あとになってその効果を見て感服するだけなのです。ましてや敵国の大将や帝王たちには理解不能。あまりにも卓越し過ぎていて、その落差によって周辺民族を制圧した。「戦国自衛隊」みたいなものです。戦力戦術の差が大きすぎてずるい。

そう、まるでチンギス・カンはタイムトラベラーなのです。

というような描き方の小説が『チンギス紀』です。ただ歴史的な裏付けがどれくらいあるかは謎です。モンゴル人は文字も歴史も持たない民族だったそうです。周辺の攻め込まれた側の歴史は残っていますが、モンゴル自身による正史は残っていない。だから何が正しいかは不明なのだそうです。では想像力を膨らませて好きに書いていいんですよね、と北方謙三がモンゴル史の学者との対談で語っていました。

『チンギス紀』は巻を重ねるにつれてチンギス・カンの登場が少なくなり、チンギス・カンの影響を蒙った者たちが各地で活躍するようになります。チンギスに負けた者たちの転身ぶりが魅力的です。小説内スピンオフ小説っていう感じです。

そういえば僕はモンゴル帝国関連の本を次々と読んでいた時期がありました。実家で捜索したらいろいろ出てきました。

最初は岡田英弘の『世界史の誕生』でした。モンゴル帝国は東洋と西洋を連結させた。そこから世界史が始まった。そして現代の国家や民族の多くはモンゴル帝国を引き継いでいる。モンゴル帝国ショックは人類が宇宙から攻め込まれたぐらいの事件で、以後地球人は変貌を遂げたのだと思いました。

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実家で掻き集めたモンゴル本。

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上の集合写真を撮ったときは行方不明だった『世界史の誕生』。