2013年4月7日発行の「草生人メルマガ Vol.019」に書いた記事を見つけました。すっかり忘れていたけど、読み返したらけっこう味わい深いのではないかい?と思いました。改めて公開してみますね。
女子プロレスラー米山香織選手のストーリー(じつに 彰)3月29日(金)の夜、草加の創作ダイニング&バー FlapJack'sで、草加市在住の女子プロレスラー米山香織さんを応援するイベントがあった。
じつは米山選手を知らなかった。そんな客のために、このイベントを主催した店主が、米山選手が登場するまでの時間を使って彼女のプロフィールを紹介をしてくれた。そしてDVDで数々の名勝負を見せていただいた。
小柄だが、素晴らしい身体能力で、飛ぶ、蹴る、回る。
とくに相手の上に飛びついて両足で相手の胴をホールドしたまま、まっさかさまに自分から落下して回転エビ固めにいく技は、そのダイナミックさとあまりの速さにハーっと胸がすく。「米-ZOU」という名称の得意技らしい。
やがて米山香織選手ご本人が登場した。現在31歳だそうだが、小柄(150cm)で童顔なので20代かあるいは10代にさえ見える。この小柄な体でJWP女子プロレスに所属し、次々と戦歴を重ね、タイトルを奪りまくっていたのだ。
かつて女子プロレス大ブームのときの全日本女子プロレスでは25歳定年という暗黙のルールがあったという。あまりにも過酷な職業である。いつまでもやっていられない。
米山選手は2年前、2011年の7月に、年末に引退すると表明した。
そして迎えた12月23日の引退セレモニー。米山選手を送るテンカウントのゴングが鳴っている最中に、突如として米山選手は引退を撤回した。
前代未聞だという。ネットをあさると批判の声が渦巻いたことがわかった。引退という重い言葉に対する冒涜であるとか、悪しき前例を作ったとか、引退撤回そのものが突発的な行動であるように見せかけた演出であるにちがいないとか……。もしかしたらそうかもしれないと思った。
さして強い関心もなかったこの問題だが、ようやくそのセレモニーの動画を見た。
テンカウントの6つめだろうか、「ああ!待ってくださーい!」と彼女が叫んでうずくまった。ゴングが止まった。仲間が駆け寄り肩を抱いた。観客の野次が飛んだ。いや野次ではない。「辞めなくていいよー!」という励ましばかりだ。「ヨーネヤマ!ヨーネヤマ!」というコールと手拍子が起こった。泣きじゃくる米山。次々とリングに上がる仲間たち。
「まだプロレスやりたいです。引退を撤回します!」と米山。
すると飛んで来て米山に強い蹴りをいれる女性選手がいた。彼女は泣いていた。泣きながら去った。
「もう覚悟を決めた! 大好きなリングに上がり続けてやる!」と米山。
この動画には強烈なリアリティがあった。見ているものを強く揺さぶる感情の高ぶりがあった。米山選手が人生を賭けた場面であったことはまちがいない。
米山選手はそれから約1年数々の戦いを経た後、JWPを退団してフリーになった。そして先月、3月10日、ユニオン認定Fly to Everywhereワールドチャンピオンシップで勝利し、初代王座を獲得した。そして今も戦いに明け暮れている。
さて、FlapJack'sでの米山選手を励ますイベントには、なんとアームレスリング世界チャンピオンが参加していた。関谷栄一さんといって、八潮市でアームレスリングの道場を開いている方だ。ちょっと話を聞くことができた。
「アームレスリングは格闘技です。1対1で肉体同士で戦う競技はすべて格闘技です」
と力強く語ってくれた。
ふと『ちはやふる』という競技かるたを題材としたマンガ・アニメを思い出し、頭脳と反射神経と身体を駆使した競技の場面を関谷さんに説明してみた。
「それは格闘技です!」とご判断いただいた。
さて、そのイベントには「ロボットプロレス」を主宰する小俣善史さんも参加していた。以前から興味を持っていた人物と会うことができて興奮した。もちろんロボットプロレスもれっきとした格闘技だと関谷さんが保証した。
小俣さんは「草加発のロボットプロレスはもっと世間に知られるべき」と力説していた。まったく同感だ。
また小俣さんは、プロレスの特徴はストーリーにあると解説してくださった。1つずつの出来事をつなぎストーリーを紡ぎ、未来に向けて展望するのがプロレスの発想だと。
ロボットプロレスは、去年の草加ふささら祭りでの盛り上がりの様子がNHKの番組で取り上げられ、今年は秋葉原で大きなイベントへの参加が決まっており、そこから秋の草加ふささら祭りを経て未来へとつながるストーリーをイメージしているという。
過去の栄光、失敗、悲しみ、どれも忘れることなく受け入れて、点と点を線でつなぎ今に至り、未来へと引き伸ばす。プロレスとは実存の思想なのだ。
米山香織選手はとてつもないものを背負いこんでしまった。だが、だからこそ彼女は今、力強いストーリーを描いているのではないだろうか。
以上です。
最近過去の自分の作業を振り返ることが多いです。