草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

BiSHの「オーケストラ」。夜空とは孤独な宇宙のことではないだろうか。

今さら名曲を聞き直すシリーズ。BiSHの「オーケストラ」。

オーケストラ」は2016年に発表されたBiSHの代表曲。僕は第5回アイドル楽曲大賞2016のメジャーアイドル部門で第2位に入ったので知った。

第5回アイドル楽曲大賞2016>> メジャーアイドル楽曲部門

ちなみに1位は欅坂46の「サイレントマジョリティ」、3位に同グループの「二人セゾン」も入っている。当時は「オーケストラ」でBiSHのファンになった人は「オーケストラ新規」と呼ばれていた。実際僕はそれまでその曲もBiSHのことも全然知らなかった。

YouTubeで視聴して打ちのめされた。こんなに大きくて悲しくて尊い曲はなかなかない。

↓ BiSH「オーケストラ」OFFICIAL VIDEO

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この曲の大きな特徴はテンポの速さだ。BPM180! ドラムがドンドコドンドコドンドコドンドコとうるさいほどの手数で打ちまくる。ベースがうねる。

だがメロディーはゆったりと伸びやかなので、この曲をバラードという文章も見かける。一般的にバラードはテンポがスローなものと思うが、メロディーや歌詞が叙情的であればバラードだという見方もあるかもしれない。

「オーケストラ」の美しいメロディーならばBPMを半分の90と解釈してドラムのアクセントを叩いても重厚な名曲として成立しただろう。だがBPM180で叩きまくることでメロディーと歌詞が激しいビートに急き立てられるように胸に迫るのだ。この速さこそ命だ。ちなみにもう1つの代表曲「プロミスザスター」もやはり速くて、BPMは170。

問題は中盤に歌われる「夜空の交換をしよう」という歌詞だ。夜空とは何かがわからなくてずっと考えている。

そこで夜空を見上げてみた。すると宇宙が見えた。宇宙に吸い込まれた。宇宙で僕は一人ぼっちだった。僕だけの宇宙。夜空とは孤独な宇宙のことではないだろうか。谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』を思い出す。

「夜空の交換をしよう」と言ってはみたものの、それぞれの孤独な宇宙を交換するなんて不可能。だから「馬鹿らしくなって投げた」のだ。

この曲の歌詞は、友人か恋人との別れを後悔して涙を流す様を描いている。そして苦痛にもだえるように声を絞り出してこう歌う。

「こんなにも流してた涙も 語る声も オーケストラ」

「こんなにもどかしくて辛いのが 音を立てる オーケストラ」

孤独な宇宙で「オーケストラ!」と泣き叫んでいる。「オーケストラ」が何を意味するかわからないけど、でもその強さは瞬時に理解できる。涙と声ともどかしさ、喪失感と辛さが塊となって迫ってくるから。

ぼくにはリゲティ管弦楽曲が聴こえるような気がした。

↓ ジェルジ・リゲティ「アトモスフェール」

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最後に「あんなにも近くにいたはずが 今では繋がりなんて この空だけ」と歌われる。

離れ離れになってしまったという悲しい現実の反対側に、でも空はつながっているんだ、生きてさえいれば……、という救いの意味が読み取れる。

こんなことを友人に話したら、「死んでいても空はつながっているよ」と言われた。