草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

デングリ・シンクロニシティ

昔からの友人の西村昌巳さんとの間で、2000年1月末から2月中旬までやりとりした数通のメールが出てきました。ひょんなことから妄想が現実になって、そこから急展開するノンフィクションです。暇つぶしに読んでみてください。

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西村「ミクロの悪意」2000年1月31日16時29分

僕の現在の仕事は、大蔵省の外郭団体の●●●研究所というところでプログラマ達に仕様書を書くということです。

顧客は労働省特殊法人で、そこの経理システムの仕様を作っています。

で、そういった経理システムだから、仕様書の中には、資産とか損益とか借方とか伝票とかいう言葉がすごくよく出てくるんですね。

そこで、僕は一つ、本当にささやかなたくらみを考えたわけです。それは、その仕様書「伝票」という言葉をこっそりと「伝に変えておくというものです。勿論、何百個のうち2,3個なんだけど、その「伝栗」はひっそりと仕様書の中に埋もれているのです。

僕がこの会社にいるのは、3月までなんだけど、それからもその仕様書はここの資料として残りつづけます。そして、いつの日にか、誰かが偶然にそれを発見して、その誤植に、ささやかな、でもとてつもなく不気味な感じがして、ブルってなるような時を夢見ています。

にしむら。

 

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西村「デングリ・シンクロニシティ」2000年2月1日21時0分

僕からのメール

はじめてメールを出させていただきます。

平成9年度 春期 第二種 午後 問16の設問2の問題中の文章に関して、の質問です。 

そこで,E君は倉庫に送る納品伝栗ファイルをもとに,

問題中に以上の表現があります。本来の文脈ではここは納品伝票となるかと思われるのですが、あえて、「納品伝栗」とされている意図はなにかあるのでしょうか。元々の問題がそのようになっていたのでしょうか。あるいは、そちらで書きうつされたときに誤ってそのようになったのでしょうか。

 以下、回答でした。しかし、これで、ますます謎になってきた。次は通産省を調べねば。

東京理科大学の山本と申します。

元々の問題が、

「そこで,E君は倉庫に送る納品伝栗ファイルをもとに,」 となっています。

取り急ぎ、ご報告いたします。

にしむら。

 

染谷「Re: デングリ・シンクロニシティ」2000年2月2日14時45分

やりますね。すごいですね。

メールで問い合わせましたか。

しかも東京理科大学の山本という人の返事がうますぎます。

なんかやばいことが潜んでいそうでわくわくします。

 

西村「ウラ取り調査開始」2000年2月2日20時54分

 通産省にメールする前に、本屋で情報処理第二種の問題集が本当に伝栗になっているのかどうかを調べました。

日刊工業新聞刊の問題集はその個所は伝票になっていました。ただ、これは明らかにリタイプしたもので、編集者が勝手に伝栗伝票に書き換えた可能性があります。

一方、学研からの問題集は問題用紙をそのままコピーしたようになっているのですが、いかんせん平成10年の問題までしか掲載されていません。

前の年の学研の問題集があれば、完全にウラがとれるのに……。

もしかして、染谷氏の近くにそのような問題集があったら、是非調べて欲しいのですが。(勿論、なければいいよ)

よろしくお願いいたします。

にしむら。

 

染谷「Re:ウラ取り調査開始」2000年2月3日15時56分

調査ご苦労様です。

残念ながら社内には「情報処理第二種の問題集」は見当たりませんでした。

さて、出題された問題自体に「伝栗」という用語が使われていたかどうか興味津々です。

もし使われていた場合、どういう意味で使われていたのでしょうか。

もし文脈的に「伝票」とほとんど同じ意味なら、なぜ「伝栗」という用語をあえて選んだのか。

それでも「伝票」という意味を受験者が読み取ったとして、「伝栗」という文字と「伝票」という意味の間の齟齬によって無意識にどんな「ノイズ」のようなものが生じるか。

そしてそのなんらかのノイズを情報処理技術者たちが育んでいくことにどんな意味があるのか。

通産省は何をねらっているのか……。

それとも単なる誤字なのか……。

ハプニングから思わぬ効果が得られたのか……。

そもそも「伝票」とは何か。

「票」はカードやシートのようなもの?

では「伝」は?

「票」「栗」はなぜ似ているのか?

謎は膨らむばかりですね。

 

西村「伝栗の真相」2000年2月3日16時27分

ところで、伝栗に関して、さらに何冊もの問題集でその個所が「伝票」であることを確認。さらに、当日、会場で配られた問題も入手。

そして、決定的にそれも「伝票」だったんです。

ということは、東京理科大の山本氏の陰謀か。

しかし、俺って一体、何やってるんだろ。

にしむら。

 

西村「Re: デングリ・シンクロニシティ」2000年2月6日20時56分

こんにちわ。伝栗の件ですが、ついに問題用紙を入手。確認したところ、残念ながら、伝票でした。そこで、再度、理科大にメールをしたら、以下のような回答をいただきました。

先日は、メールありがとうございました。

再び、大変恐縮なのですが、平成9年春午後の情報処理第二種の問16設問2の例の「伝栗」の文字に関してなのですが、当日、試験会場で配られた用紙を確認しましたところ、「伝票」になっておりました。

あ!漢字が間違っているということでしたか。

問題にミスがあるのかと勘違いしました。申し訳ありませんでした。

さっそく、「伝票」に変更させていただきました。

イメージスキャナで読み込んだときに、誤変換したようです。 

連絡、ありがとうございました。

 あっさり謝られちゃって、しかも感謝までされてしまいました。

ところで、僕の目的なんだっけ。人間は目的と手段が逆立する動物だって以前、君が言ってたけど、そんな感じの西村でした。

にしむら。

 

染谷「Re: デングリ・シンクロニシティ」2000年2月7日14時18分

あいかわらずご苦労様です。

あっさり謝られちゃって、しかも感謝までされてしまいました

ところで、僕の目的なんだっけ。人間は目的と手段が逆立する動物だって以前、君が言ってたけど、そんな感じの西村でした。

 理科大の方は、西村君がさかんに「伝栗」になってるぞと指摘していたときに、その「伝栗」「でんぴょう」と読んでいたんでしょうかね。

へんないいがかりだと思ったでしょうね。

ところで「人間は目的と手段が逆立する動物だ」と、僕が言った記憶ははっきりとはないのですが、でもそれは言えますよね。

っていうかだれかとっくに言ってたでしょう。

 

染谷「票の意味」2000年2月11日14時48分

こんにちは。

「字通」という辞書(白川静著)で調べてみました。

【票】

正字、その初文は𤐫に作る。(し)は人の頭部。

(しかばね)を(や)いて、その火の飛ぶことをいう。

[説文]に「火飛ぶなり」と訓して会意とし、上記の形を「(せん)と同意なり」とする。

(せん)は[説文]に「高きに升(のぼ)るなり」とあって、登僊(とうせん)の意と解するが、死者を一時板屋に遷して殯葬の法という字である。

票は焚屍(ふんし)の象。

古く火葬も行われ、その火勢のさかんなことを票という。

 以上のように、「屍を焚いて、その火の飛ぶこと」なんだそうです。

なかなか鮮烈なイメージです。

いっぽう「栗」はどういう意味か。

次回こうご期待。

ちらっとみたら「りつ」と読み、慄然とか戦慄とかいう感覚と関係がありそうです。
ちょっと怖い、という共通したイメージを抱えた字なんですね。

伝票を伝栗と入れ換えて、「死」を遠ざけようとしても、通底する畏れからは免れない……、というようなうがった解釈が待っていそうです。

 

西村「伝栗の真意」2000年2月17日20時51分

染谷氏の「票」「栗」の考察恐れ入りました。

それに対抗すべく私も新しい視点で伝栗について考えてみました。

というのも、本日、再び、gooで「伝栗」を検索したところ、なんと新たな伝栗が発見されたのです。

それは、平安時代の仏像調査というページで、そこに以下のような仏像があるらしいということ。

薬師如来坐像(伝栗丹寺本尊)

兵庫県但東町伝栗丹寺という寺があるのか。

そこで、私は考えた。「デンクリタンジ」この文字配列をちょっと変えると実はこうなる。

「デンクリジタン」

そうです。伝キリシタン。すなわち「伝栗」とは隠れキリシタンの隠語だったのではないかということなのです。

とにかく、その寺が実際に存在するのかどうか、そしてその地方がキリシタンとどのような関係にあったのか。

至急、時間があったら調べてみます。

にしむら。

 

染谷「Re: 伝栗の真意」2000年2月18日14時46分

そうです。伝キリシタン。すなわち「伝栗」とは隠れキリシタンの隠語だったのではないかということなのです。

それはすごい!

そうすると「栗」がクリスチャンやキリストの言い換えかもしれないわけで、昔の文献に出てくる「栗」の字を「キリスト」と読み替えることが可能になります。

そうすると全然ちがう意味が浮かび上がってしまうわけです。

 

染谷「大きな栗の木の下で」2000年2月18日21時3分

大きな栗の木の下で

あなたとわたし

仲良く遊びましょう

大きな栗の木の下で

 この歌の「栗」がキリストを指す隠語だとしたら、この歌はどんな意味になるのでしょうか。


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以上でメールのやりとりの転載は終わりです。いかがでしたか?

ところで、「伝栗丹寺」について改めて調べたところ、どうやら「伝『栗丹寺(りったんじ)』」と読むのが正しいようです。ん? ジッタリン・ジン(JITTERIN'JINN)?

西村昌巳さんは、家紋や歴史を中心にあらゆる文化を考察するブログ「一本気新聞」を主宰しています。

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