1月24日(日)、草加市文化会館ホールで、「オリジナル市民音劇 歌とダンスのファンタジーⅦ ピノッキオ!! ~??ワールドを行く~」が上演されました。
出演者は、朗読キャスト、ダンス、合唱グループ、吹奏楽団と管弦楽団、プロのソロ歌手など、総勢200名にも及びました。「歌とダンスのファンタジー」というこのユニークな舞台シリーズでは、なぜいつも膨大な出演者たちがみな輝くのでしょうか。その秘密はストーリーにあるのではないか。そう狙いをつけて、舞台を鑑賞してきました。
ストーリーの骨子は、ピノッキオ(女の子が演じています)が井戸に飛び込んでアリスの地下帝国に紛れ込み、そこでアリスといっしょに旅する、というものです。
◆とどまるとこの国が消える。先に進むことを運命づけられた少女!?
その旅の過程で、様々な土地の様々な人たちの歌やダンスを目の当たりにします。バレエ、ベリーダンス、ストリートダンス、コーラス……、次から次へとパフォーマンスが披露されますが、アリスとピノッキオはとにかく先を急ぎます。なぜなら、アリスが一か所にとどまるとこの国が消えてしまうからです。先に進むことを運命づけられた少女、それがアリスなのです。
この謎が、この物語の進行の原動力になっていきます。とどまると消える。先に進まなければならない運命。これは何を意味するのだろう。何の比喩なのだろうと、観るものは絶えず考え続けることになります。
すぐに連想したのは松尾芭蕉の『おくの細道』でした。
「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。」から始まるこの文学作品の冒頭で、芭蕉は「時間とは旅人である」、そして「人生は旅そのものである」と述べています。
つまり、芭蕉にとって、旅が終わることはこの世界から自分が消えることを意味する、ということだったのではないでしょうか。結局芭蕉は関係ありませんでしたが……。
さて、途中から「世界で一番美しい物を探す冒険家」も旅に同行することになります。旅の目的が追加されました。
そしてもうひとつ、ピノッキオとアリスの間の親密さが増していることも、歌(はじめてのチュウ)で示されました。
旅の終盤で「嘘つき王国」にたどり着きます。
嘘とは何か。そこで歌われた子守唄で、「嘘」の深い意味を知ることになります。嘘には信じたい嘘、優しい嘘があること。そして「愛する人達はみんな嘘つき」という事実を知らされます。
◆答えは「夢」!?
ここで驚きの急展開。
スクリーンに中学校の教室の様子が映し出されます。ピノッキオとアリスはクラスメート。教室で居眠りをしていた二人が、アリスの地下帝国の長い長い夢から覚め、現実に戻ったのでした。
これで一気に謎が解明されました。つまり、先に進まずにとどまると消えてしまうものとは「夢」だったのです。
旅に同行していた「世界で一番美しい物を探す冒険家」は社会の先生でした。
先生から「世界で一番美しい物は?」と問われて、アリスは嘘つき王国で聞いた子守唄から知ったこと。「世界で一番美しいのは愛すること。人を愛すると嘘も美しい」という真理を述べました。
すると先生は「世界で一番美しい物は、美しいものを美しいと思える素直な気持ちだ」と言いました。つまり、アリスとピノッキオが愛について感じ取った真理を讃えたわけですね。
美しいものを美しいと言うのは、単純なようで複雑、簡単なようで困難。ピノッキオとアリスは旅路の果てにとうとうそこに到達したのでした。
その結論を受けるように、最後は出演者全員がステージに上がって「What a Wonderful World」と「ボラーレ」を歌いました。圧巻でした。
ところで風の精霊(大西桃湖さん)の歌声が素晴らしかったことを強調したいと思います。大西さんは小学校低学年の女の子です。あの美しい歌声は素直に美しいと思いました。