草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

『BLUE GIANT』ー全力ジャズがイージーなジャズに戦いを挑み続ける物語

BLUE GIANTはジャズを中心テーマとした漫画。全10巻。それが劇場アニメ映画になった。

主人公は宮本大。仙台生まれ。10代のテナーサックス奏者。デカい音、強い音に価値を置いている。毎日長時間、川堤で1人で練習していた。サックスの師匠との出会いでしっかりとした技術も身につけた。そして世界一になると決意して、東京に行く。

東京で同年代のピアニスト沢辺雪祈(ゆきのり)と出会う。演奏技術の高さと、卓越した作曲能力を持っている。

そこに高校の同級生、玉田俊二がドラマーとして加わる。彼は初心者(ものすごい速さで上達する!)。3人でグループを結成する。グループ名はJASS。劇場アニメ映画は東京でのJASSの活動を描いている。

映画を観るまで、漫画から聞こえる音はジョン・コルトレーンだった。

なにしろ『BLUE GIANT』のBLUEは「BLUE TRAIN」、GIANTは「GIANT STEPS」というコルトレーンのアルバムを連想するし、その後の第2シリーズ『BLUE GIANT SUPREME』は「A LOVE SUPREME(至上の愛)」というアルバムを連想する。

ちなみに作品中で『BLUE GIANT』は青色巨星という天文学用語だと語られて、うまいこと言うなと思った。

※ところで「ブルー」がつく漫画が最近多いらしい。「ブルーピリオド」「ブルーロック」「ブルーストライカー」「ビーブルー 青になれ」……。

さてジャズには野心的なジャズとイージーなジャズがあると思う。僕は野心的で前進的で求道的なジャズに心酔し、その代表的なアーチスト、ジョン・コルトレーンをよく聴いた。

漫画「BLUE GIANT」の宮本大はもっと強くもっと速くと前進しつづける熱い男で、コルトレーン側の演奏家だと言える。

沢辺雪祈のピアノはもっとクールだ。コルトレーンのピアノならマッコイ・タイナーのような雄大な響きが必要だろうと思ったが。沢辺雪祈はアカデミックで知的。ビル・エヴァンス系か。宮本大と混ざるとどんな音になるのか、成立するのか、などと不安も抱えながら想像しながら映画館に行った。

ジョン・コルトレーンビル・エヴァンスマイルス・デイヴィスのグループで共演したことがある。

映画『BLUE GIANT』のプログラムはLPサイズだった。

映画は演奏シーンがメインだった。人間ドラマは補助的な役割とさえ言えそうだ。すごいライブを観てしまった、という鑑賞後感を抱いた。そして上原ひろみサウンドトラックを聴き込んで、2回目は立川シネマシティの極上音響上映に行った。

宮本大のサックスはやはりコルトレーンを彷彿とさせる熱い音だった。そこに絡む沢辺雪祈のピアノは技巧的で、でも力強い。その特徴が強く出ているのが「FIRST NOTE」という曲。それは今まで聴いたことのないような素晴らしい曲だった。

まず7拍子だ。でも変拍子を感じさせないような明快なサックスのメロディー。ドラムがメロディーの間を埋める。ピアノの左手がベースのように低音でウォーキングするときがある。

やがてピアノ・ソロが来るとドラムはシンバルだけになって、静けさが沁み渡る。美しく悲しい音色だ。雪祈の境遇を思ってしまう。でも静かな決意も感じられる。サックスが低いロングトーンで寄り添う。弓彈きベースのようにも聞こえる。

ピアノの音がだんだん強くなる。情感が溢れ出す。サックスが強さを引き継いでソロを吹く。速いフレーズ。高音がシャウトになる。3人が1つになって高揚し爆発する。

「FIEST NOTE」はその1曲だけで3人のドラマが見えてくる。

BLUE GIANT』には若いミュージシャンによる全力で全身全霊のジャズが、イージーなジャズや惰性的なジャズに戦いを挑み勝利しまくる痛快な物語という側面もある。

ジャズというジャンルはとっくの昔に死んでいたがマイルス・デイヴィスが延命して今に至っている、と言ったのは誰だったか。ジャズはすぐにイージーになって堕落してしまうのかもしれない。新しい人がどんどん登場してジャズを刷新し続けてほしい。いや素人に言われるまでもなく既にそうなってるか。

BLUE GIANT

音楽 : 上原ひろみ

ピアノ : 上原ひろみ
サックス : 馬場智章
ドラム : 石若駿

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