9月22日から24日までの3日間、浅草木馬亭で「浅草活弁祭り2016」が開催されていました。
草加市在住の活弁士麻生八咫(やた)さんとその娘さん麻生子八咫(こやた)さんが、次々と名作サイレント映画に活弁をつける、「映画ライブ」のイベントです。毎年やってます。
23日(金)の午前中に行ってきました。
最初に麻生子八咫さんの活弁でバスター・キートンの短編を活弁で上演しました。
キートンを追いかける警察官たちの人数があり得ないほどでした。広い道路を埋め尽くすほどなんです。そこから逃げる逃げる! 笑うというより驚きの連続の映画でした。
子八咫さんは20年前1996年の9月15日に、ここ浅草木馬亭デビューしたのでした。そのときなんと10歳!
それから20年なので、今は30歳です。もう円熟の域でしょうか。現在東京大学大学院博士課程に通っている才女で、博士論文執筆のため活弁は今回を持ってしばらく休止するそうです。論文のテーマは「活弁」だそうです。
そして麻生八咫さんの登場です。映画は「瞼の母」。初めて見ました。1931年の稲垣浩監督作品で、片岡千恵蔵が主演。山田五十鈴も出演して可憐な表情を見せていましたが、ええ? 当時14歳!? 天才ですね。
江戸時代の話でした。若い旅の博徒が生き別れた母親を探すために江戸に向かいます。とうとう母と会えたのですが……。
麻生八咫さんが1人で全出演者の声を出していましたが、映画の面白さに熱中して、活弁士の存在をほとんど忘れていました。映像の力もありますが、麻生さんの技術の高さによるところも大きいと思います。女性の声も、男性のさまざまな個性の声も使いわけていて、なのに「活弁士がんばってるな」と思わせないほど、声が映像に自然に溶け込んでいました。
また、舞台右袖には後藤幸浩(ゆきひろ)さんという薩摩琵琶奏者がいて、映画の伴奏をリアルタイム生演奏で行っていまいした。場面に合わせて風の音、乱闘の音、悲しみの音など様々な音色を弾き分ける琵琶の表現力に驚きました。琵琶は形も美しかったです。
さて、映画がとても面白かったことを強く訴えたいです。
内容を知らずに臨んだので、なんとなく親子の情をしっとり描く、舞台劇をそのまま撮影したような地味な作品ではないかと思いこんでいました。
ところが、情愛はもちろん深く描いているのですが、アクションもたっぷりなんです。そして撮影や編集もシャープでかっこいい。85年も前(!)の映画なのに新鮮さがありますよ。まあ画質はひどいですけど。
編集のシャープさは、たとえば、生き別れの息子にせっかく会えたのに追い返してしまった母を、娘が問い詰める場面の、母と娘の過剰な回数の速い切り返し。「おっかさん!」「……」「おっかさん!」「……」「おっかさん!!」
その生き別れの息子(片岡千恵蔵)がごろつきどもと刀で死闘を演じる場面と、息子を探して籠を走らせる母と娘の場面を交互に見せる緊迫感。速く速く! 籠の場面は足元だけ撮影して、しかもカメラが傾いている。もっと速く!
現代の映像作家たちは、サイレント映画を見直すとずいぶんと勉強になるのではないでしょうか。えらそうにすいません。