2015年7月6日(月)14時から、草加市文化協会レセプションルームにて、来る9月5日(土)に開催される「NHK交響楽団プレミアムコンサート」を前に、指揮者尾高忠明さん、ハープ奏者吉野直子さんの記者会見が開かれました。
記者会見は草加元気放送局が生中継でインターネット配信されていました。
アーカイブが残され、今も見ることができます。
コンサートの詳細とチケットの入手方法は、草加市文化会館のホームページでご確認ください。
NHK交響楽団プレミアムコンサート in 草加 − 草加市文化会館
日時:9月5日(土)、開場15:00、開演16:00(プレトークは15:30開始)
場所:草加市文化会館ホール
管弦楽:NHK交響楽団
指 揮:尾高忠明
ハープ:吉野直子
ヴァイオリン:伊藤亮太郎
プログラム:
ロドリーゴ作曲 アランフェス協奏曲(ハープ版)
プロコフィエフ作曲 ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調 Op.63
モーツァルト作曲 交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
記者会見出席者は
NHK交響楽団指揮者の尾高忠明さん
ハープ奏者の吉野直子さん
主催者の公益財団法人草加市文化協会理事長、長谷部健一さん
草加市の副市長中村卓さん
司会は文化協会常務理事の山崎大樹さん(元NHK交響楽団常任理事)
記者会見を終えて、俄然N響のコンサートに行く気が湧いてきました。
ハープ版アランフェス協奏曲はいったいどんな響きになるんだろう。「ベートーベンも及ばない高み」に行ったという「モーツァルトの最高傑作」である『ジュピター』を生で聞くと、どんな感覚に襲われるだろう。
偶然が重なって今回のN響招聘が実現し、指揮者の尾高さんをして「天命」と言わしめたこの機会、草加市民なら逃すわけにはいかないではありませんか。
以下、演奏者の発言を中心に会見の内容をまとめました。長いですがよろしければお読みください。
※質問者の名前は省きました。
●尾高忠明さんあいさつ
尾高「草加は懐かしいです。今まで2回演奏旅行に来ています。
最初は41年前です。草加はお客さんがあったかいなと今でも覚えています。
41年前も『ジュピター』をやっているから、これしか振れないのかという質問はやめていただきたい。(笑)
N響は日本一のオーケストラと言われています。生の音を聞いてもらうことが大事。生身の音と同じ空間に身をおく。
またみんなのいつものところに来て音を出す。これがすごく意義深い。N響にとってもありがたい。お客さんにも喜んでいただけるのではないかなと思っております。
伊藤さんは、3月まで僕がやっていた札幌交響楽団のコンサートマスターでした。長いこといっしょに音楽を作っていました。
すばらしい音。真面目だしテクニックもすばらしいし、なによりもとってもきれいな音。4月からN響のコンサートマスターに就任して、先々月もいっしょに演奏会いたしました。
プロコフィエフ2番の協奏曲は僕といっしょに札幌交響楽団でも演奏しています。そのときは素晴らしい演奏で、僕が褒めたのを覚えています。
彼がとても得意としている曲ですので、楽しみです。
吉野さんとは長くごいっしょさせていただいています。N響でもやってます。でもこの協奏曲は始めてです。
アランフェス協奏曲は何度も振りましたが、いつもギターとでした。それがハープと。今からわくわくしています。
これはあまり記事になると困るんですけど、ギターでやるときはオーケストラも指揮者もすごく苦労する。ギターが繊細すぎて音が小さい。オーケストラを普通に鳴らすと聞こえなくなる。合わせるのがとっても難しい。
それに比べてハープははるかに大きな音。どんなアランフェスになるのか楽しみです。
僕自身は42年ぶりのジュピターをまじめに演奏します」
●吉野直子さんあいさつ
吉野「草加というとハーピストにとってはハープフェスティバルが思い浮かびます。すっかり定着してもう20年以上続けてきて、私はフェスティバルというよりもハープコンクールのほうで、審査員として3回ほど関わっています。つい最近も昨年の11月に審査員として参加させていただきました。
コンクールには日本だけでなく、アジアは韓国、中国、香港、シンガポール、そしてヨーロッパはイタリアから。ほんといろんなところから草加に、若いハープの人たちが来るような、そんな場所になってます。
審査員もいろんな国からいらっしゃって、フェスティバルで演奏します。
草加市とハープはとっても近い関係にあると思います。
コンサートにもたくさんの市民の方がいらしていて、みなさんとてもハープを身近に感じていて、とてもうれしいことだと思います。
9月にN響とご一緒させていただく嬉しい機会をいただいて。アランフェスは、もちろんもともとはギターのために書かれた曲。とても有名で、とくに2楽章が美しい。
ハープ版は作曲家自身が作っていて、ギターと変わらないんですが、ちょっと音を足していたり、ハープに合うように少し響きを豊かにしている。ほんとうにハープにぴったり。ギターで聞き慣れた曲をハープで聞くと、またちがう面白さがあります。
N響のみなさんとは久しぶりの共演です。たびたびいろんなところで共演させていただいて、尾高さんとも、最初に共演させていただいたのはN響の定期演奏会。そのあと札幌交響楽団でご一緒させていただいた。
今回またごいっしょできることをとても楽しみにしております」
山﨑(司会)「34年前にN響の公演がこの会館で行われたのは、奇しくも9月の5日、土曜日。偶然の一致ということです」
以下質疑応答
●尾高さんは草加へはN響で来たことがある?
尾高「N響では初めて。東京フィルで2度目です」
●今回のプログラムはどういう理由ですか?
尾高「(モーツァルト作曲 交響曲 第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』について)ほんとうはN響全員連れて来たいんですが、このホールの舞台の大きさから制限がありました。小さめのホールでN響のメンバーの素晴らしい演奏を聴かせるには、モーツァルトはとてもふさわしい。
実は5月にN響は僕といっしょに山口県の萩に行きました。そこもステージが少し小さくて、そこでも『ジュピター』を演奏しました。
やはり『ジュピター』はモーツァルトの最高傑作なので、人数はそれほど多くなくとも興奮度はすごくいい。
むかしN響にいたステージマネージャーの上村さんが、『いやあモーツァルトはすごいね』と言っていました。
その直前にフル編成の公演をやって、ステージマネージャーは用意がすごくたいへんで、でもやったあとお客さんの顔を見るとあまり喜んでいない。
『それに比べて今日は最小限の椅子を並べるだけでのジュピター。でもお客さんの興奮度はこっちのほうが上。モーツァルトってすごいんですね』と言ってたのを今でも思い出します。
『ジュピター』はベートーベンも及ばなかった高みまで行った。人数は少なくて済むが内容は喜んでもらえるのではないか」
尾高「(ロドリーゴ作曲 アランフェス協奏曲(ハープ版)について)吉野さんがやってくれるからもちろん普通のハープコンツェルトでもよかったけれど、アランフェスをやってもらう。僕自身も興味深い」
尾高「(プロコフィエフ作曲 ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調 Op.63について)伊藤良太郎さんは4月にN響に入っている。今回コンサートマスターになってもらうのもいいですが、やっぱり協奏曲をオーケストラのメンバーに対して弾くべきだと思う。協奏曲は素晴らしいのでぜひみんなに聴いていただこう、いうことでこの3曲になりました」
●ジュピターとアランフェスのとき、伊藤良太郎さんはオケのメンバーになるのですか?
尾高「それはないと思います。プロコフィエフの2番は相当たいへんな曲。それに集中してもらう。彼が弾くといっても僕が阻止します(笑)」
●音楽都市宣言をしている草加市について思うことはありますか?
尾高「草加はもちろん昔から知っているし、草加せんべいだけじゃなくていろんなことを知っています。
尾高家は実は埼玉県なんです。深谷のほうでして。
僕のひいおじいさんが渋沢栄一。もうひとりのひいおじいさんが尾高惇忠(じゅんちゅう)と言って富岡製糸場の初代工場長だったんですね。そういう感じで群馬にも近いですけど、埼玉県ってのは特別の思い入れがあります。
問題なのは東京にとても近いので、ここの住人のみなさんは一生懸命東京に足を運んでくださる。だから東京の音楽家やオーケストラはここに来るよりももっと遠くに行ってしまう、ってことが現実としてあって、それはとても残念なことです。
今回N響がこの1回のために草加まで来ることはものすごく意義深いし、こういうことをわかってくださる市民の方がすごく多いのが草加だと思います。僕自身、とても楽しみにしています」
吉野「私は草加との関わりは、ハープフェスティバルが始まって、コンクールで関わるようになった縁からです。
ハープフェスティバルのコンサートを客席で聞いていると、みなさん親しみをもってハープを聞きにきて自分たちの場所で音楽を楽しむ、そういうスタイルがとても定着しているように思います。
尾高さんが言ってらっしゃったように、東京の専用のホールにクラシックを聞きに行く人ももちろん多い。それとは別に自分が馴染んでいる地元でいい音楽を聞く、音楽は自然に楽しむ。
草加市がハープフェスティバルだけじゃなくて音楽祭とかされてきた中で、市民のみなさんにも定着してきていて、N響のコンサートもそいういう中で生まれてきたんじゃないかな」
●素朴な疑問なんですけど、ハープは自分で運ぶんですか?
吉野「ホールにはピアノはありますが、ハープはないので自分で持って行きます。専門の楽器運搬の業者さんにお願いしています。海外に持って行くときもあって、ヨーロッパにはハープの運送屋さんがない。そうすると自分で車に積んで運ぶことがほとんど。たびたびレンタカーで運転したりしています」
尾高「ボルボの大きいのが運搬にはいい」
吉野「そうですね。あとバンとか。
去年はスペイン、ベルギー、スコットランドとかでコンサートがあった。去年は特別で1万5000キロぐらい。夫にも手伝ってもらって。
ハーピストというと優雅に弾いてる姿がエレガントに見えるけれど、実は楽器弾くのもペダルが7本あって両足両手けっこう忙しい。体力も使いますし。持って運ぶのにも、なにより健康第一(笑)」
●吉野さんに質問です。アランフェスのハープ版はどのように聞かせたいのでしょうか。
吉野「もちろん最初はギターのための協奏曲として書かれました。
スペインにニカノール・サバレタという伝説的なハーピストがいます。ハープの世界に貢献した方。私も小さい時何回かお目にかかった。
サバレタさんが(アランフェス協奏曲作曲者の)ロドリーゴと親しくて、たぶんサバレタさんが助言をしながらロドリーゴがハープ版楽譜を出している。
作曲家自身がハープ版を出しているので、これはある意味ハープで弾くアランフェスのオリジナルだと思います。
ギターだと繊細すぎて、オーケストラとのバランスがとりにくい。ハープはギターに比べればかなり音量も大きい。共鳴板がすごく大きいぶん響きも豊かなので、いつも聞き慣れているアランフェスがより大きな響き、豊かな響きになる。なおかつハープは繊細な楽器でもあるので、タッチの細かいニュアンスを聞いていただけます。
1、2、3楽章を通していろんな場面が出てくる。いろんな音色を聞いていただけると思います」
●草加の演奏家の卵、中学生、高校生たちはどういう心がけで過ごしたらいい?
尾高「日本は、好きかどうかもわかんないような小さいうちから、ピアノやヴァイオリンを始めさせる傾向がすごくある。
その人達がだめになるとかそういうことではなくて、その人たちが弾けるようになったあと、ほんとうに音楽を好きになれば、ばーっと伸びていきます。
一番大事なことは音楽が好きだということだと思います。
遅くピアノを始めた人でも、好きな思いが強いと、すごい勢いで進歩する。
よく音楽性という言葉がある。テクニックとか音程がよくとれるとかそういうことを表す人が多い。
僕は音楽性すなわち人間性だと思う。
一人ひとりの人間が出てくるのが音楽。一人ひとりの人間が音楽を好きであればあるほど、すばらしい音楽家に近づいていく」
吉野「尾高さんがおっしゃったことと基本的には同じ。音楽が好きになる。自分がやってることが好きで、この曲のこんなところが好きで、ここをみんなに伝えたいから上手に弾きたい。そういうことが大事。
もちろん小さいときから楽器を練習していると、みんなが遊んでいるのに自分が練習しなくちゃいけない。そういう部分もやっぱりある。なんでも上手なりたいと思ったら練習しなければいけない。
でもいつもその中で、何か楽しみを持ちながら勉強するというのが大事だと思います。
私はたまたま父の仕事の関係で小学校に入るときにアメリカに引っ越した。
小学校1年生のときからハープをアメリカで習い始めた。母もハーピストだったので家にハープはあった。
アメリカのハープの先生がとても楽しく教えてくださる。よくできると褒めてくださる。褒められたらうれしいし、みんなからよかったよと言われるとうれしいんですよね。
自分が楽しいから弾くというのが根本にある。苦しいとか大変というのが先にあるとなかなか続かない。
一生懸命練習しても全員が全員音楽家で食べていけるかどうかわからない。
でも自分が楽しんでやっていれば、コンクールに出たい、とかはあとでついてくる」
●草加市文化会館でN響をやることができた経緯は?
長谷部「エポックメイキングな出来事。まさに青天の霹靂(へきれき)。9月5日が急に浮上したということなんです。
元草加市長の今井宏さんが、母校の春日部高校の同窓会の会長を今されていて、春日部高校にもすばらしいコンサートホールがある、小さいですけどね。そのコンサートホールに新たにスタインウェイのピアノを入れたい、ということで活動されていまして、私も後輩ですから手伝って、そういった事業を進めていた。
春日部高校にぜひN響を、ピックアップメンバーですけども演奏に来てほしいという交渉をしに今井さんがNHK交響楽団に行かれた。
そのとき、草加市が音楽都市宣言をしてハープもやってるなど、いろんなお話が出ました。
その中で、ここにいる山崎常務理事も、N響の常務理事出身ということで、話に非常に花が咲いた。
ところで9月にぽっとスケジュールが開いているところがあるんだけど、もし受け入れる余地があるなら行ってもいい、という話をされた。
今井さん、これはしめた、これはたいへんなことだと、まっすぐ草加市の中村副市長、そして私のところへ連絡をくれまして、どうだろう、文化会館押さえられるかね。
私はすぐ文化協会事務局に電話して、空いてるか? と聞いたら『9月5日だけあいてます』。
じゃあすぐ、仮に押さえておいてくれ、と。
そのあとすぐ中村副市長が文化協会事務局に電話したら『仮予約が入っちゃってます』と言われた。
それで僕に『長谷部さん文化会館だめでしたよ』って電話した。『私が押さえてますから』と返事しました。意思の疎通がうまくいかなかったわけです。
そこから話がスタートしました」
●晴天の霹靂というのはいつのことですか?
長谷部「詳しい日付はあれですけど、3月だったと思います。今年の3月」
●そんなに急に!?
長谷部「急だったんですそれで青天の霹靂。
ずーっと地ならしして1年も2年も詰めてこの日と決めるんだったら、順当な決め方なんでしょうけど。
まさにこれはラッキーとしか言いようがない。
われわれとしても市民文化振興積立金も利用させていただいて、N響さんに来ていただく、とそのような話で進めてきました」
●春高の件はどうなりましたか?
長谷部「今お話してるところです。できれば毎年出ていただけるようにしたい。そしてこの東武線沿線、春日部から越谷・草加を、音楽、文化を大事する埼玉県東部地区、と位置づけていきたい。文化、音楽を大事にしたまちづくりを目指している」
山崎「9月5日にN響が空いていたのも偶然だし、この会館が空いていたのも偶然。たまたまタイミングがあったということ」
●尾高さんは今回やるジュピターは、以前草加でもやって、41年ぶりですが、そのへんはどうですか?
尾高「41年ぶりというと、僕は23でデビューして、26で東京フィルの指揮者になりたてで、ここにうかがっていると思います。たぶんジュピターは振ったとしても数回目。1回目かもしれない。
26の若造が一生懸命振ったジュピターだったと思います。
それにくらべて今回は40年経ったじいさんのジュピターになるか、いや相変わらず少しは若いねと思ってくださるかわかりませんが。
やっぱり40年やってるとそこから出てくる音楽はぜんぜんちがう。それはモーツァルトのジュピターを変えるというつもりじゃなくて、その人が出てくるというのが演奏です。
26のときのどう振ったのか、僕自身は覚えてませんけど、いまだに僕は本番は感動で震えてしまう。それぐらいすごい作品。
9月5日もとても楽しみにしている。
偶然というお話がありましたけど、N響も偶然空いていた、ホールも偶然空いていた。正直、僕達に話がきてびっくりしました。
9月5日? 来年ですか? 再来年ですか? え?今年!?
偶然みんな空いてたというのはもしかしたらこれは天命だと。そういう演奏会かなと思います」
中村副市長「今進行をしていただいている山崎さんについて。
今日の記者会見は山崎さんの提唱で、市役所というのは前例踏襲で、いままでコンサートの前段で記者さんを招いて会見はしたことがございません。
文化協会の申し入れで、みなさんに声をかけさせていただいて実現したのは山崎さんのお力です。
彼はNHKの幹部として徳島の放送局長を務められて、そのあとN響の常務理事になって、そして今回、草加市文化協会の常務理事としてお迎えするに至ったわけでございます。
異色といえば異色。
草加市の文化協会常務理事は長年市の職員の指定ポストでしたが、今回始めて民間の、文化活動に精通された方、放送現場をいろいろ経験されてきた方をお迎えしたわけでございます。
そして今回こういう形でこちらから情報発信する攻めの姿勢で記者会見を開くというご提案をしていだいて、わたしもご同席させていただきました。
そこにこれからの文化協会の文化活動にかける意気込み、そしてそれにコラボしている我々行政の意気込みをぜひ感じ取っていただきたい。
みなさんにも、草加はこういう取り組みをしているぞと、情報発信していただければたいへありがたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします」
山崎「過分なご紹介をいただきまして恐縮でございます。
ほぼ1時間を費やしましたのでこれで今日の会見は終えさせていただきます。
どうもありがとうございました」