山口愛子さん(ボーカル/カズー)と片野浩道さん(ギター/コーラス)のふたりからなる音楽ユニット、ケセランパサラン(Keseran Pasaran.)のインタビューその2です。
その1はこちら。⇓
ちゃんとしたCDを出すまでは沖縄に帰りません
★結成はいつですか?
浩道 オフィシャルでは去年(2017年)が10周年。ですから結成は2007年です。ケセランパサランとして本気でやっていこうとした時なんですよ。その前に、趣味でいいよね、お互い面白ければいいよね、ってやっていた時期が少しあるんです。
★東武線で再会してスタジオで遊び始めて、それからほどなく?
浩道 その間もまだちょっと………。
愛子 たぶん2年くらいは、ひたすら曲を作ってたんですよ。
浩道 で、とりあえずライブをやってみようと、渋谷でライブやったことがあるんです。その時に出演するのに必要なので「ケセランパサラン」とつけたんです。2005、6年くらいじゃないですかね。
★ちょっとやってみようよ、とスタジオでやったときは、これはいける! と思ったんですよね。
浩道 いやー思ってなかったと思いますね。
愛子 これはいけるぜ、っていうのはなかったですね。ただただ楽しくやりたい、と。ちゃんとやろうってなったのが………。
浩道 ライブを何回かやっているときに、沖縄に住んでいる人と知り合ったんです。その人がうちらのことをすごい好いてくれて「沖縄に来て!」と言ってくれたので、半年くらいお世話になりました。沖縄って飛び入りライブとかがけっこうあるんですよ。
愛子 当時はね。
浩道 そういうのをいろんなところで探しては、がんがん飛び込んで。
★それで手応えが。
愛子 もうどんどん繋がって。「今度はあの店にいくといいよ~」って。
★いい人たちですね。
浩道 それでワンマンライブとかやるようになって。もう帰るっていうころには、お世話してくれた人が「本気でがんばんな! 東京でもがんばんだよ!」って。
愛子 「本気でやります! ちゃんとしたCDを出せるまでは沖縄に帰りません」って言って。
★それからCDを出したわけですね。
愛子 4年くらいかかっちゃっいました。東京でイベント会社の社長さんと知り合って……。
浩道 その社長さんが沖縄のモンゴル800のレコード会社とつながりがあって。
★なぜかまた沖縄が関わるわけですね。
浩道 そのCDが「ParappA」です。これは西本(明)さんによる東京での録音です。それを沖縄から全国リリースしました(2013年4月24日リリース)。
※西本明氏はキーボードプレーヤー、作編曲家、プロデューサー。浜田省吾、佐野元春、尾崎豊、渡辺美里、白井貴子などの日本のロック・ポップス史上のレジェンドたちに曲やアレンジを提供したり、サポートプレーヤーとしてパフォーマンスを支えて来た人。
★西本さんとはどこで知り合ったんですか?
浩道 路上ライブで出会った方が「ケセパサはCD出さないんですか? 出さないのなら僕がやります」って言ってくれて、いろいろ彼が動いてくれて、西本さんと繋いでくれました。
★佐野元春の「SOMEDAY」のイントロのピアノが西本さんなんですってね! ものすごく好きだったんで。
浩道 西本さんの還暦のパーティーで来ましたよ、佐野さん。オフレコ話ですけどwこの僕のギターを借りてSOMEDAYを弾いてくれたんです!
愛子 あれよかったね! すごく嬉しそうに言うもんね、「佐野さんが僕のギターを!」って。
★西本さんがアレンジとプロデュース?
浩道 正式に言うと紹介してくれた彼(takeruさん)と西本さんのダブルプロデュースなんですよね。彼がロックテイストの音が好きだったんで、このアルバムはロックテイストの強いアルバムなんです。ドラムの人は杉山章二丸さんといって、タイマーズ、清志郎のタイマーズで叩いてた人。
★凄いですね! そんな一流の人たちといきなり……。
浩道 それからパーカッションの里村さんという、なんか凄い人と。
愛子 雑だな(笑)。
★心配なのが、お金かかりますよね。プロなので。
愛子 それはご心配通りに、かかりますね。
浩道 あ、でもアマチュアの頑張っている人たちだっていうことで、相当………。
★出世払いということで。
浩道 そう。やってくれたんです。
★そういう人たちから認められたってことですよね。
浩道 そう思っていいですかね。
愛子 西本さんはよく「ファンになってしまいました」って言ってくれるんですよね。
★CDデビュー後は都内のライブハウスとかで演ってたんですか?
浩道 そうですね。あと関西のライブハウスとか。
愛子 活動し始めたときは地方ばっかり行ってました。沖縄と北海道が多かったかな。地元ではいっさいやらなかった。やるときは東京。
10周年だし大人になったし、地元は大事にしていきたいよね
★草加に拠点を移したのはどういう想いからですか。
浩道 それは去年(2017年)10周年を迎えて、なんかやっぱり地元だな、と。うちらのちょっと上の、仕事で東京とかいろんなところ出て行ったけど、ちょっと落ち着いたら地元に戻って商売を始めたとか、そういう人と会ったんだよね。
★いろんな事情で、決意して草加に根を張った人すごい多いですよね。
愛子 そうですよね。何より地方ばっかり行っていて草加でやらなかったのは、本当に2人の生まれ育った街過ぎて、ちょっと照れというか、親戚に見せるような感覚があって、特に若い頃は恥ずかしいかなって、避けてたんですけど、10周年だし大人になったし、地元は大事にしていきたいよね、みたいになって、去年(2017年)からやたらやりだしたんですよ。
★以前は北千住の路上でやってたとか。
愛子 北千住でやっていたのは相当前だね。
浩道 我々は音響を一切使わない路上スタイルなんですよ。で、夜やるんですよ。シャッターが閉まった後、ルミネのシャッター前。9時半から朝方まで。何度夜を越えたか。
愛子 派手な路上ライブをしたくなかったんだよね。集まれって感じじゃなくて、やっと人がいなくなってきたね、って言って歌って。
浩道 だから一切告知とかしないんですよ。一期一会。
★人が立ち止まって、聴いていくという感じですね。
浩道 そうです。CD買ってくれてチップくれて。
★あんまり人は集まらない?
愛子 いやでも、集まるときは集まりました。終電近くなると人がいなくなって、声がすごく通るんですよ。
浩道 聞いてると気持ちいいんだよね。
愛子 終電近くになると、終電逃した人や酔っ払いとかディープな人が増えてくるんだよね。ひとりひとりみんなにストーリーがあるんですよね。「こいつ今日失恋したから、なんか1曲慰めになるようなやつを歌ってやって下さいよ~」って。
浩道 「じゃあやりますね」って歌い出すときに、「はいストップ」って駅の人が止めに来たり。
愛子 いろんなドラマがあるんですよ。
浩道 酔っ払ったおじさんが急に踊って参加してきてね、「よっとよっと」って。でメガネ割れてるんです。でもその人、素面の時に何回も通ってるんですよ、一切見向きもせず。酔っ払ったときははじけちゃって変なんですよ。次の日すーっと通り過ぎて。記憶にないんですよ。でも割れてるメガネをテープで貼ってたりとか。
愛子 少し切なかった。その日は何かあったのかな、とか。
浩道 いろいろあるよね。良く路上ライブに来てくれていた子が亡くなってしまったということをあとで聞いてすごいショックを受けたり。
愛子 いろいろありましたね。路上は。
★ひとつひとつ素敵ですね。歌詞がいっぱい書けそうですね。
愛子 そうですね。でもほぼ実話を歌詞に書かないので、そういうのは全然反映されていないですね。路上の話をしたらあと5時間くらいかかっちゃうんで。
中村八大さんの息子さんが草加市歌をぜひやってくださいと言ってくれた
★奏草舎(そうそうしゃ)に参加したのはどんなきっかけですか?
※奏草舎とはリノベーションによるエリアプロデュースを行う家守会社。
浩道 単純に慶子さん(CAFE CONVERSIONのオーナー今井慶子さん)に誘われたから。
愛子 われわれも草加で音楽やっていきたいし、草加は音楽都市宣言してるじゃないですか。その割には音楽イベントもちらほらしかない。
★メインがハープだし。
※国際ハープフェスティバルが毎年草加市文化会館で開催されている。
愛子 慶子さんも、やりたいことには音楽が必ず欲しいという思いがあったので、面白そうだね、って。
浩道 そうだね。
★基本的には音楽担当?
愛子 そうですね。音楽でまちづくりを広めること。
浩道 だから最初にやったことが草加市歌「想い出はいつも」を歌うこと。作曲した中村八大(はちだい)さんの事務所に電話して許可をもらいました。
※草加市歌「想い出はいつも」は、作詞:中村八大・西村達郎、作・編曲:中村八大。中村八大氏は「上を向いて歩こう」「遠くへ行きたい」「明日があるさ」など、名曲の数々を生み出した偉大な作曲家、ジャズピアニスト。
浩道 いざ八大さんのところに電話したら、息子さんが社長さんで、自分たちが草加市出身だと話したら、ぜひやってください、と言ってくださいました。
★なるほど。
浩道 中村八大さんともう1人、作詞の西村(達郎)さんにもお会いしてるんですよ。で、西村さんによると、八大さんが病院に伏せているときの最後の方の作品だったらしいんですよ、「想い出はいつも」って。
★作詞は共作なんですよね。
浩道 西村さんの流れで今年の成人式でも草加市歌を演奏しました。
※西村達郎さんは草加市の成人式「新成人の集い」の演出も担当している。
★「想い出はいつも」っていい曲ですよね。「上を向いて歩こう」のテイストがあるんですよ。スイングしていて軽やかなんだけどエモいメロディ。
浩道 エモいのと、歌詞の内容とかもね、幼少期からだんだん。
★想い出の歌ですから。
愛子 西村さんに、こういう風に歌詞を考えているとか、これってこういう意味ですかとか話したんですよ。西村さんも、歌詞のことをこんなに考えてくれたんだ、って言ってくれて。私たちの音源も聴いてもらって感想をいただいて、それに対して手紙返して……。ちょっとした文通になりました。話しやすい素敵な方です。ユーモアもあるし。
※YouTube「ケセパサ、成人式で歌ってきたよドキュメンタリー」。「想い出はいつも」は13分34秒から
発声でいうと全部が裏声なんですよ
★愛子さんの声は独特で、裏声と表声が混じっているように聞こえます。
愛子 あれは発声でいうと全部が裏声なんですよ。しゃべっている声も裏声なんです。
浩道 表でしゃべってみるとひどい声になるんですよね。
愛子 特訓して表を出せるようにしないと。あ、あーと。これがたぶん表。すごいだみ声みたいになるんです。
★話し声が全部裏声って凄いですね。他にもそういう方っているんですかね。
愛子 どうなんですかね。ミックスボイスというのもあって、宇多田ヒカルさんがそうだとか。裏と表の境い目がないんですよ。「あー」と声を出したときに、通常、どっかでくるっと裏声にスイッチするんですけれど、それがないまま上がっていく。
★薬師丸ひろ子さんとか全部裏みたいに聞こえますね。
愛子 全部裏っていうと、イメージ的に、か細くふぁああ、ってやるようなイメージがたぶんあるので、私が裏声の発声だというのを知っていて見に来ると、「か細く歌うかと思ったら元気でパワフルだったんですね」って驚かれます。
★謎が解けました。
本当にみなさんプロで、音楽歴も私たちよりも長いし
★CDを聴くとミュージシャンがみんな素晴らしい。ウッドベースも凄いですね。録音もいいのかな。音がすごい伸びてるんです。
愛子 ベースのうの(しょうじ)さんも凄いですからね。ウッドベース1本でいろんなところ行って。
★そのへんの人というのは、西本さんがチョイスしているんですか?
浩道 いえ、僕たちがチョイスしています。
愛子 いろいろ出会っていく中でだよね。
★あとはヴァイオリンでなくヴィオラなのもいいですよね。
浩道 低い音も高い音も鳴らせる特性を持っているんで。
愛子 本当にみなさんプロで、音楽歴も私たちよりも長いし。
浩道 手を抜いていると言われちゃうかもしれませんが、この曲やって欲しいというときには、音源を渡すんですよ。普通は楽譜を渡すんですけど。あとはお願いしますって。まあ楽譜書けないっていうのもあるんですけど。
★たぶん、音源の方がいいんじゃないですかね。貰う方も。
浩道 そうそう。それを楽譜に書き起こしてくれる人がいて、それを共有したりできます。
愛子 でも速いんだよね、起こしてくれるのが。
※その3につづく ⇓
※ ⇓ ケセランパサラン公式ホームページ。CDの購入もここからできます。