『草生人』2018年夏号の特集は「地元で飲む 草加のバー」だ。
取材の経緯やエピソード、そして今回取材に至らなかったけれど面白い店について書いておこうと思う。
この特集を思いついたのは、昨年(2017年)4月に、獨協大学前駅東口の街バル「町張楽座(ちょうはりらくざ)」を体験したときだった。バーにはコミュニティがあると思った。「草生人」でカフェにコミュニティがあるというコンセプトで特集をやったことがあるが、バーのほうが濃いかもしれない。
そこで街で見かけたバーや、インターネットで検索して見つけた店に、客として飲みに行ってみた。スナックでも居酒屋でもキャバクラでもなく、あくまでもバーを探した。ひとりでいきなり店のドアを開けるのは緊張だった。でもどの店もオープンでウェルカムで明朗会計だった。
RESTAURANT & BAR TRIP
『草生人』の前の号「そうかまちづくり新世代」特集でお世話になった松原のTRIPは、真っ先に取材した。
オーナーの関野さんは去年の「町張楽座」と同時開催の食と音楽の野外イベント「虹空横丁」のプロデューサーだった。
そして今年の9月2日(日)にまた「虹空横丁」が開催される。草加でお馴染みのフォークデュオ、ケセランパサランと、ジャム・バンド、no entryが出演する。
関野さんの活動は、松原(獨協大学前)や草加に良質な文化があることを広く外にアピールしてくれる。
RESTAURANT & BAR TRIP……草加市栄町3-9-8 小沢ビル102
街バル「町張楽座(ちょうはりらくざ)」
チケットを持ってお店をはしご
期間:9月2日(日)~9月6日(木)
場所:獨協大学前駅周辺
虹空横丁
料理と音楽とワークショップのイベント
日時:9月2日(日)10時~16時
Apache JCT / Country MORE(アパッチジャンクション/カントリーモア)
カントリーモアは最重要な店なので、慎重に取材依頼した。草生人のバックナンバーを見せて、この雑誌のために取材させてくれと頼んだ。
「取材は断っているんだよね。今までも出たことないよ」と大田さんは言った。
「でも草加のためにがんばってる雑誌には協力しようかな」と異例の取材許可がいただけた。
後にある方から「よく大田さんが出てくれたね!」と驚かれた。
Apache JCT / Country MORE……草加市栄町3-1-20
カントリーファミリー
カントリーモアの大田さん取材のあと、ほかのバーの取材は楽になった。大田さんのところに行ってきた、と言うとたいていのバーは取材OKになる。いかに大田さんが尊敬されているかわかる。またカントリーモアを中心に草加の主だった複数のバー同士のつながりによって、ゆるくて大きいバーコミュニティがあるように感じる。
クーパーズの店内に貼られていた野球大会の古い写真。カントリーモア、クーパーズ、サファイアの店員や客がみんなで写っていた。
谷塚のKa-Barのイトさんは以前はカントリーモアの常連で、大田さんとアメリカに行ったこともあるという。
新田東口のそばにあったfree styleはカントリーモアの元店員が独立して開いたバーで、カントリーファミリーと言えるだろう。
だがfree styleは先ごろ区画整理で移転して、新田駅からちょっとだけ離れた静かな住宅地という環境でやっていくことになった。そこでランチとディナーを主力にして、深夜までは営業しなくなった。「今うちはバーではないかな……」とオーナーさんが言ったので誌面では取りあげなかった。
きび
雑貨とファッションの店、花うさぎの店長さんの推薦が「きび」だった。別の友人もFACEBOOKで何度も紹介していた。
試しに入って、カウンターに座って、店主に日本酒を選んでもらった。店主はちょっと無愛想ながら熱く語ってくれた。
そんな店主と明るい奥さんのコンビネーションがよかった。小さなかわいいお子さんも笑いを振りまいて店の雰囲気づくりに貢献していた。
カントリーモアの大田さんが、「きびは子供が生まれてから禁煙にした」と憤っていた(冗談で)。
きびの店主は、もともと禁煙にしたかったところに子供が生まれていい口実ができた、と言っていた。禁煙のバーは貴重で、そこも女性客に人気のある理由だろう。
きび……草加市栄町2-5-23 エトワール山崎 1F
和伊ん酒場 hasshini
以前サファイアがあった線路沿いの建物が建て替えられて、新しいバーが入っていた。
靴を脱いで上がる仕組みで、席はすべて掘りごたつ形式。カウンター席もだ。
目の前の壁に、マグリットなどの現代美術が印刷された紙が掛けられている。裏返すとメニューだった。
料理はイタリアンが基本で、いろいろ工夫している。サバキムチという料理を食べた。サバの身をほぐした上にキムチが載ったものだが、これが意外に合う。
hasshiniは、2年続けて草加駅東口で開催された草加Welcome Festivalで店を出していた。
和伊ん酒場 hasshini……草加市 住吉1-8-14
酒場みどり
酒場みどりは、旧道から脇に入った、とても雰囲気のいい路地にある。まだ新しい店で、オーナーはサファイアで働いていた人だという。ならばここも草加のバーのファミリーの一員と言えるだろうか。
緑色を使ったきれいな内装。カウンターに生ハムの原木がドンと設置されていた。
花のや
花のやは神明庵スタッフの角田さんをはじめ、何人かから勧められた。京風のおでんがおいしい、と。
初めて入ったとき、歓迎してくれたのは常連の男性客だった。彼は店内の客みんなに話しかけ、僕はみんなと打ち解けることができた。
マスターは僕とほぼ同年代。ちなみにサファイアとクーパーズとKa-Barのオーナーも同年代だ。
だから、店内のBGMは有線の80年台ポップスだった。もろ「ベストヒットUSA」の世界なので心がウキウキした。音楽はアメリカ、料理は京風。
Delito(デリート)
草加駅東口、人気のラーメン店時茂の2階にDelito(デリート)というバーがある。店のシンボルマークはブーツのデザイン。実はイギリスのブーツメーカー、ドクターマーチンの販売会社による経営だということだった。女性店長も前はブーツを売っていたとか。そんなわけで内装のイメージはロンドンファッション。
店長さんはとても明るくて話し好きだ。毎年7月に草加駅西口で開催される「よさこいサンバフェスティバル」に店を出したいと意欲的だった。
そして実際今年の7月、Delitoは本当によさこいサンバフェスティバルに店を出していた。僕を覚えていてくれてうれしかった。生ビールを飲んだ。
Delitoの店内
John O'Groats(ジョン・オグローツ)
草加駅東口の交番のそばの大番ラーメンの2階に、ウイスキー1000種類以上を備えているバーがある。
マスターはウイスキー文化研究所の講師の一人であり、ウイスキー専門誌のレギュラーテスター。
一種の道場のような場所。常連は静かにウイスキーを追求する。初心者にはオーナーが的確なアドバイスしてくれる。
常連客がここでの経験を活かして店を出したと言っていた。貴重なウイスキーを贈ったそうだ。
John O'Groats……草加市高砂2-10-20 高砂ビル2F
Ka-Bar
雑誌で取りあげたバーボンとブラックミュージック愛好家の溜まり場Ka-Barは、とある友人の推薦だった。
ちなみに特集で取材したバーは獨協大学前駅(松原)周辺が4軒、草加駅周辺が4軒で、谷塚駅周辺はKa-Bar1軒だけになった。新田はなし。
前述の通り、オーナーのイトさんは、アパレルの仕事をしていた時期に、カントリーモアのオーナー大田さんとアメリカに2回行って来たと言う。
また一時はカントリーモアの超常連で、いつもカウンターの端に座って用心棒的な役割を任されていたと言っていた。
そのことを大田さんに言うと、用心棒なんてことはない、と笑いながら否定する。二人がかなり親しいのは確かだ。
草加市瀬崎3-4-28
Heaven's Dining Tiraboo
竹ノ塚に本店があるHeaven's Dining Tirabooは、オーナーの大関さんが草加かどこかに新しい店を出したいと、とある不動産屋の担当者に夢を語った。おそらく熱弁しただろうと想像する。やがて、担当者から「ありました!」と連絡があった。
見に行ったらまさにイメージ通りの海と砂浜を連想させる白い外壁に青い縁のビルだった。
その不動産屋とは、獨協大学前駅東口のアドバンスなのだった。アドバンスの社長はパインアベニュー商店会の会長。「草生人」の前号「そうかまちづくり新世代」で取材させてもらった方だ。
そんなわけで、Heaven's Dining Tirabooは創業一周年の新しい店ではあるものの、商店会の会員であり、9月2日から始まる街バル「町張楽座」にも参加する。
Heaven's Dining Tiraboo……草加市栄町2-6-9-101
NG
松原のティールームJUNの店長ジュンさんから、「バーを語るならNGに行かなくちゃだめだ」と言われてしまった。ジュンさんが尊敬する店だという。
昭和43年にオープンして50年間営業し続けているバーだった。オーナーは創業当時19歳で、今69歳。
静かでゆったりした空間。ここで50年間ひたすら客さんにお酒を出す仕事を続けてきた。だから外のことはあまり知りません、と語る様子にちょっと誇りを感じた。
NG……草加市栄3-9-10
NGの店内