草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

携帯電話を携帯と略す……。広い概念の言葉が特定の意味に独占されていく現象

ところで「携帯電話を携帯と略すな」「WikipediaWikiと略すな」という意見をSNSで見かけました。

「携帯」と言えば「携帯電話」を指すことが社会常識として通用しています。これは電話の意味が携帯という言葉に飲み込まれているような状態です。このため電話以外の場面での「携帯」の使用に弊害が生じています。つまり「携帯」という一般的な言葉が、携帯電話に独占されてしまっているのです。

インターネット百科事典「Wikipedia」は「wiki」と略されがちです。「wiki」は不特定多数のユーザーによってウェブブラウザから直接コンテンツを編集できる特定のシステムの名称です。wikiを利用した参加型百科事典が「Wikipedia」であり、「pedia」の部分に百科事典(Encyclopedia)の意味を含ませています。百科事典じゃないwikiの話をしたい人は困っているでしょう。

同様なことがいろいろあります。

「USB」と言うと「USBメモリ」を意味しがちですが、USBはパソコン周辺の接続規格ですね。

「スーパー」といえば「スーパーマーケット」です。ちなみにテレビ業界では「スーパー」は「スーパーインポーズ(字幕)」の意味のほうが強そうです。

「ウインナー」と言えばウインナー・ソーセージのことだと、それしかないと、日本人は思い込んでいます。「ウイーンの」という意味ですよね。オーストリア人はこの日本の状況をどう捉えているでしょうか。

「パーマ」は「パーマネントウェーブ(永続的波型)」の「パーマネント」を取り出しさらに略した言葉ですね。パーマと聞くともはや波のようにうねる髪型しか連想しません。さらに「パンチパーマ」に至っては元のウェーブからもう1段階離れ、挙句の果てには「パンチ」だけで意味が通じるようになっているとか。

「ピアノ」は最初は「ピアノフォルテ」でした。弱い音(ピアノ)も強い音(フォルテ)も弾ける鍵盤楽器の名称です。略されて意味が半分になってしまいました。弱い音だけならもはやチェンバロですよね。

「シェフ」はフランス語の「chef de cuisine(シェフ・ド・キュイジーヌ)」、つまり料理長を省略した言葉で、chef(シェフ)は英語のchief(チーフ)に相当します。「シェフ」には「長」の意味しかない。日本ではフランス料理の料理人全般をシェフ呼んでいますが、「シェフ!」と呼びかけるのは「長さん!」と呼びかけているようなものなのです。

本来は広い概念だったはず言葉が特定の意味に独占されていく現象は、みんなのものだと思っていた森林が大企業のビルに変わってしまう現象に似ている、と言うと強引でしょうか。