草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

西村との出会い

1月6日に友人の西村昌巳君が亡くなりました。63歳でした。

西村君は博学でした。社会学、哲学、歴史、文化人類学に詳しくて、映画、ロック、アニメ、相撲などについても広くて深い考察をしていました。ルービックキューブを28秒(だったかな)で解けて、これはガロア群論を応用するのだと言っていました。中でも家紋については網羅的に研究していて、『家紋主義宣言』という著書もあります。いつもにこやかで、会話ではたいてい聞き手で、相手の話を深く理解して誠実に返す人でした。

僕はいつも心の中の西村君に向けて文章を書いていたと改めて思います。西村君にウケるかな、西村君が何か言ってくれるかな、と想定して書くと、なかなかいい文章になったのです。

西村君とは大学2年生のときに知り合いました。出会いの場面をmixiというSNSで書いたことがあります。『じつにサプリ』という僕の電子書籍にも載せてあります。

 

西村との出会い


大学で西村に引き合わせてくれたのは高校時代からの友人Hだった。
「水曜の2限に518教室に行けば西村がいるよ」というHの指示に従って、僕は一人でその教室に行った。
西村らしき男を見つけた。隣に座った。
彼は講義に熱中していたので話しかけられず、しかたなく僕も講義を聞いた。難しい内容だった。
彼は一生懸命ノートを取っていた。文字がびっしりだった。
授業が終わり、はじめましてと挨拶した。
彼は立ち上がり、
「俺、次も授業だからまたね」
と教室を去っていった。
取り残された僕は、おいおい冷たいな、と思った。
すると彼が教室に舞い戻ってきた。
「これあげるよ」
と何か丸いリンゴぐらいの大きさのものをこっちに放り投げてきた。
その丸いものが右手にポンと収まった。木魚だった。お坊さんがポクポクやるあの木魚。

2005年01月16日