最近発売された、映画『夢の音』のDVDを観ました。2019年3月に劇場公開された音楽青春映画です。
監督・脚本:松浦健志で、主演が眉村ちあき。
眉村ちあきは作詞作曲も編曲もこなすシンガーソングライターです。株式会社 会社じゃないもんの代表取締役社長でもあります。
他のミュージシャンたちを凌駕する眉村ちあきの圧倒的な歌唱力
さて、映画の最初のシーンはある会社のトイレの個室。三上葵という派遣社員(眉村ちあき)がそこで昼食をとっています。他人との交流が苦手なんです。会社の先輩女性佐久間千夏(佐久間みなみ)がそこから引っ張り出してくれて友達になってくれます。千夏先輩は路上でギター弾き語りをするシンガーソングライターです。
葵は姉夫婦の家に居候していて、夜になるとライブ配信サイトSHOWROOMで酔いながら配信する趣味があります。視聴者はほんのちょっとしかいません。葵の日常は、さえないコミュ障の自己評価最低の生活です。
東京カタルシスというインディーズの人気バンドの女性ボーカルがメジャーデビューのために脱退したことから急展開します。代わりのボーカリストを探すためにバンドはオーディションを開催。会社の先輩もチャレンジする。
ミュージシャンやシンガーがたくさん出てくる映画です。演奏や歌唱のシーンはどれも迫力がある。でも眉村ちあきの歌声はほかのシンガーたちを凌駕します。
たとえば葵がライブハウスに客として観に行ったら、いきなりステージから「歌え」と呼び出され歌うはめになる。あるいはインディーズバンドの打ち合わせに呼び出され、歌えと命じられ、歌う。
こんな四面楚歌なアウェイの場面こそ、葵の歌の力を見せつけられる胸がすく場面だ。声量、声質、抑揚、安定感などさまざまな要素があるのだろう。葵の歌は聴く者の感情を揺り動かし慰撫し、しあわせにする!
以前『ベック』という漫画が原作の音楽映画を観たら、神がかった声を持つという設定のボーカリストの歌唱シーンで歌声が無音になって驚きました。観客の心の中で神の声を聞けという意図だったのでしょうか。本物の声を聞かせたら白けると思ったのでしょうか。眉村ちあきは本物の歌声で感動を呼び起こすことができます。
天才だけどあやうい眉村ちあきを見守っていきたい
眉村ちあきは今ではその天才ぶりは知れ渡っていて、さきごろ武道館でのコンサートも成功させているほどのアーチストです。しかし松浦健志監督が眉村ちあきをオーディションで見出したのは2017年。まだ無名の地下アイドルでした。それから映画公開の頃にテレビ出演などでその存在が知れ渡ったんだから、監督にとってはとてもラッキーな出会いでした。
僕はこの映画を公開当時(2019年3月)に吉祥寺のココマルシアターという20人ぐらいで満員になる小さいホールで観ました。
上映後にトークショーがあって、監督の松浦さんと眉村ちあきのお姉さん役の桜まゆみさんがしきりに眉村ちあきの天才ぶりを語っていました。監督が曲を作ってと頼んだら、翌日に持ってきたとか。桜まゆみさんは「自分は10数年女優をやってますけど、初めて演技したという眉村さんの演技力の凄さに正直へこみました」と語りました。
ちなみに眉村ちあきの会社の先輩にしてシンガーソングライターという役を演じた佐久間みなみさんは、当時上智大学の学生で、撮影のあとミスソフィアグランプリを受賞し、大学卒業後の2020年4月、フジテレビにアナウンサー職で入社しました。逸材だったんですね。プロ歌手にならなかったのが惜しい気もしますが。
眉村ちあきは、葵の精神的な不安定さをリアルに演じていて、すごい演技力だと思いました。
ところで、先月(1月5日)にライブ配信サイトSHOWROOMの「豪の部屋」(吉田豪のレギュラー番組)に出演したときに、コロナ禍でライブができない間に精神的にかなり病んだことを語っていました。もっと前にも「壁見てる」という曲で、家でずっと壁を見ているという異常な状況を歌っていて、これは実話だったそうです。
眉村ちあきは才能も弱さも葵そのものなのかもしれません。天真爛漫でいつも笑っていて、天才音楽家だけれど、実はあやうい眉村ちあきを見守っていきたいです。