草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

ももいろクローバーのことばかり考えている

西村昌巳さん主宰の、家紋や歴史を中心に文化全般を考察するサイト『一本気新聞』が今公開を停止しています。そこで、僕が2011年5月11日にアップした記事「ももいろクローバーのことばかり考えている」をこちらに転載します。

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最近ももいろクローバーのことばかり考えている(4月10日にももいろクローバーに改名)。

残念ながらまだ生の現場は体験していないが、毎日Youtubeニコニコ動画ももクロの動画を探したり、DVDを見直したりしている。

DVDとは『ももいろクリスマス in 日本青年館~脱皮:DAPPI~』。2010年12月24日(クリスマスイブ!)に開催されたももいろクローバー初の単独ホール公演を収めたものだ。

以下、そのDVDの内容を紹介しながら、ももいろクローバーの魅力のほんの一部を語りたい。

1曲目は「走れ!」。2010年5月5日に発売された、ももいろクローバーの代表的なCD「行くぜっ!怪盗少女」のカップリング曲だ。

白い幕の向こう側で歌う6人の姿のシルエットが見える。

全員のユニゾンによるリフレインから始まる。

笑顔が止まらない! 踊るココロ止まらない!

動き出すよ 君の元へ 走れ! 走れ! 走れ!

軽快なテンポに急きたてられ、何かをしよう!という衝動が湧き起こってくる曲だ。

おかしい。音痴な声が混じっている。

白い幕が落ちる。6人が姿を現し、進み出る。

テンションの高いエレクトロニカサウンドが響き渡り、観衆がリズムに乗って叫ぶ。

最初のソロは高城れにからだ。シンボルカラーは紫。最年長の高校2年生、17歳(以下年齢はすべて公演当時)。

れに、歌えてない。音がとれていない。音痴の犯人は彼女だった。

どうした!トラブルか!

れにの顔を見ると、なんと泣いている‥‥。

なぜいきなりオープニングから泣いてしまっているのか。歌えないほどとは、並大抵の泣き方ではない。

ボーナスDVDに開演直前の彼女たちの様子が収められている。実はすでに全員泣いてしまっていたのだ。もうこのままステージに向かうしかない。

「泣いてもいいんだよね?」「問題ないよ。」というやりとりがあった。

2008年に結成し、代々木公園でのストリートライブから活動を始め、全国の電気店やショッピングモールを回り、地道なライブを積み重ねて実力をつけ、ファンを増やしていったももいろクローバーは、この日にとうとう初の単独ホール公演にたどり着いた。ここに1300人もファンが集まってくれた。

感激と感謝と緊張が彼女たちの感情を揺さぶって、涙が止まらないのだ。そのままの状態で、全員あの白い幕の後ろで歌い出していたのだ。

最年長でありながら精神的には不安定さが垣間見える不思議少女高城れには、声に感情が現れやすい。

Youtubeに、2009年11月とある小さな会場でシングルCD「未来へススメ!」がオリコンデイリーランキングで初めてベストテンに入った知らせを受けた(6位)彼女たちの様子を収めた動画があった。感激のあまり高城れにが激しく泣きじゃくり、もはやちょっと普通でないような状態だ。

「走れ!」のソロパートでの高城れにの緊急事態に気づいたファンたちが、彼女を支えなければならない、といっせいに叫んだ。

「れにちゃーん!」

もうみんな泣いていた。それを知ったファンたちも、そして後日DVDで見ている僕たちも。

次のソロは佐々木彩夏(あやか)。あーりん。シンボルカラーはピンク。目から涙があふれている。でもしっかり笑顔だ。

ファンたちは声を合わせて繰り返し叫ぶ。

「あーりん!あーりん!あーりん!あーりん!」

あーりんは無事に歌えた。

あーりんはグループ最年少の中学2年生の14歳だ。「ももクロのアイドル」と自称している。

アイドルグループになぜ「アイドル」がいるのか。メタアイドルなのだ。

アイドルアイドルして、表情や口調に媚をたっぷり含ませる。計算している。

計算できるのは、大人びているから。

早見あかりを除けば、いちばん精神的に安定感があるように見受けられる。イベントやライブで暴走しがちなメンバーたちを冷静に観察してペースを保つ役割を自認しているようだ。次期クールビューティ候補?

3人目のソロは百田夏菜子(ももた かなこ)。シンボルカラーは赤。高校1年生。16歳。リーダーだ。もちろん目に涙はあふれている。だが、力強い歌声。

ファンたちも支える。

「かなこー↑↑ かなこー↑↑」

「かな」のあと「こ」を低いところからずりあげて伸ばす。おなじみのコール。デビューからずっとファンたちが叫んでくれた、いつものコール。これはきつい。かなこはうれしさのあまり、号泣しそうになる。でも耐えてソロパートを歌い切った。

そしてリフレイン。

腕を強く振りながら歌う。

高城れにだけ、動きが激しすぎて同じ振り付けに見えない。「紫が激しい」。これもももいろクローバーの見所。

続いて間奏。

リーダーのかなこが叫ぶ。

「みんなー!ついに幕が開けたよ!」

そしてサブリーダーの早見あかりが叫ぶ。

「楽しんでいきますよー!」

喉から搾り出したような絶叫。激情のこもった泣き声まじり。

早見あかりは高校1年生の15歳。シンボルカラーは青。ステージやイベント出演ではしばしばMCも担当。「クールビューティ」を自称して、冷静に舞台を仕切る。彫りの深い端正な顔立ち。身長も高くてまるでモデルか女優さん。日本のアイドルグループの中ではちょっと浮いた存在かも。

彼女はこのコンサートの翌月にグループからの脱退を宣言する。そして、2011年4月10日のコンサートを最後に脱退した。クリスマスコンサートの時点では、まだだれもこの未来を知らない。メンバーもファンたちも。

早見あかり自身はクリスマスコンサートの時点でもう決意していたのだろうか。

僕は未来を知ってからDVDを見たことになる。間奏でのあかりの絶叫に、悲壮な決意を感じてしまった。

間奏のあとは有安杏果(ありやす ももか)のソロ。高校1年生15歳。シンボルカラーは緑。「小さな巨人」を自称している。さすが素晴らしい安定感。豊かな声量の独特なハスキーボイスと力強いハイトーンをもっている。しばしばレパートリーの最大の難所を任される。

1980年代に活躍したアメリカの女性バンド、バングルススザンナ・ホフスを連想するような、個性的で魅力的な声だ。

バングルスではスザンナがリードボーカルをとり、ほかのメンバーがコーラスで支える。個性的な声をグループの武器にするなら当然この布陣を採用するはず。黒人女性グループ、ザ・スプリームスも個性的な声のダイアナ・ロスをメインにしてヒットを飛ばした。

ももかの声とテクニックを生かすなら、彼女をセンターにしたグループにすべきだろう。

だがそうしないのが、ももクロの凄さ。基本の布陣はかなこ(赤)のセンター。そして1曲の中で次々とポジションチェンジしてソロパートを受け渡す。ももかの順番を待って圧倒されるのが楽しみになる。

ちなみにバングルスもスプリームスも個性的な声のリードシンガーはその後ソロとして独立してしまった。

かなこの2回目のソロに続いて高城れにの2回目のソロ。彼女の持ち味であるやさしさのこもった美しい歌声を取り戻すことができた。

続くソロは玉井詩織(たまい しおり)。中学3年生、15歳。シンボルカラーは黄。「みんなの妹」を自称している。年齢はあーりんよりも上だが、泣き虫で怖がりだという証言がいろんな資料で見受けられる。今も明らかに涙をぼろぼろと流しながら歌っている。

風貌や口調に幼さが混じっているしおりんはアイドルの「かわいさ」を完全に体現している。あーりんのようなメタレベルではないしおりんの本物の「かわいさ」は、ももクロの武器だ。だが「妹」らしからぬ長い手足と高い身体能力も有する。アクロバットまがいの振り付けもこなせる。「しおりん!」という声援に助けられて歌いきった。

クロバットまがいの振り付けがももクロを有名にした。

「行くぜっ!怪盗少女」の間奏で前転側転を繰り出し、きわめつけはかなこ(赤)のエビ反りジャンプ! ジャンプしながら腕と頭を後方に反り返し、同時に両足を後方に蹴り上げる。横からみるとCの字?いやα(アルファ)だ。頭よりも足が上に行っている! しかも異常に高く跳んでいる。

新体操経験のあるかなこを筆頭に全員類まれな身体能力を有している超アイドルグループなのだ、ももクロは。

もっともこの「走れ!」にはアクロバティックな振り付けは与えられていない。強い思いを全身で表現しようとするような振り付けだ。

この歌の一人称は「僕」。胸に秘めている「キミ」への思いを伝えようと決意している歌だ。

動き出して 僕の体 走れ!走れ!走れ!

 自分を励まし、勇気を振り絞り、自分を行動へと駆り立てる瞬間の心の動きが歌われている。くじけそうになったとき、僕はこの歌を口ずさむつもりだ。

リフレインのあと、別の展開に進む。

3人と3人、ふたつのグループに分かれる。

ももか(緑)、あーりん(ピンク)、しおりん(黄色)の3人。

あかり(青)、れに(紫)、かなこ(赤)の3人。

3人ずつ交互に客席に向かって歩み寄りながら、1フレーズずつ歌う。花いちもんめスタイル。

まるでラップのような畳みかける早口。

ももかグループの甲高い声に対して、あかりグループは1オクターブ低い声。

あかりの声域はとくにもともと低く、ももかのハイトーンと対照的。

多くのレパートリーでは、ラップパートでその声の魅力が生かされている。

この畳み掛け合戦で決意に揺らぎがあることが表現される。

一度きりの

人生だから

キミの前じゃ素直でいたいんだ

 そのあとリズムが消え、静けさの中でかなこ(赤)が歌い上げる。

それでも答えは出せないよ 少しの言葉出せないよ

「君が好き」 それだけで世界を変える?変わる?

 世界は変わるか? かなこ(赤)はこう問いかける。

目は真正面を力強く見つめている。この目は勝負を挑んでいるみたいだ。

ももクロは戦っている。アイドル戦国時代を。

今は、AKB48を筆頭に無数のアイドルグループたちが群雄割拠している時代なのだそうだ。

ももクロは「天下統一する」と宣言して、路上ライブからのし上がった。

2009年の夏は、ワゴン車で毎日全国を旅して、イベントをこなした。

車中泊もした。あのときは家に帰れなくて本当につらかったと述懐するほどだ。

K1グランプリの幕間にリングで歌とダンスを披露したり、ぜんぜん畑ちがいのロックバンドとの対バンイベントに出たこともある。

そんな試練も乗り越えた。

でも本当の敵はだれ?

それは試練を設定している所属事務所なのではないか。大人たちなのではないか? 彼らが「逆境」を用意して、それを乗り越え成長する姿を見たがっているのだ。

TBSラジオ小島慶子のキラキラ」で吉田豪氏が分析していた。

彼によると、ももクロの所属事務所スターダストプロモーションのマネージャー川上氏は、アイドルのことは分からないがプロレスはわかる、とプロレスの興行の手法をアイドルのプロモーションに取り入れたのだそうだ。団体や選手間の抗争のようにアイドルグループ間の抗争を設定し、勝利していくストーリー。

その設定に翻弄されて辛い目にあっているのかもしれない。だが、ももクロはか弱き犠牲者ではない。だって「アイドル」は彼女たち自身が望んだ道なのだから。

「逆境こそがチャンスだぜ 雨も嵐も さあ来い さあ来い 体を張りまくり」とももクロは「ピンキージョーンズ」で歌っている。

どの曲にも全力を尽くし、体力の限界まで強く大きく跳ねて回って、時にはノンストップで何曲も踊り歌う。息が上がりながらも歌う。

でも笑う。ぜいぜいしながら笑う。泣きながらも笑う。

自分が望んだ道だ。試練ならすべて引き受けてやる。つらい? だからこそ楽しい。

「君が好き」 それだけで世界を変える?変わる? 

 そう世界は変わるのだ。

あらゆる問いに「YES」と答える。それがももクロだ!

音楽が上に移調する。レベルアップ? 何度も繰り返されたあのリフレインが最後に全員で歌われる。

笑顔が止まらない! 踊るココロ止まらない!

動き出すよ 君の元へ 走れ!走れ!走れ!

今はまだ勇気が足りない! 少しのきっかけが足りない!

動き出して 僕の体 走れ!走れ!走れ!