1月25日(日)、草加市文化会館のホールでは、15時から2時間に渡ってオリジナル市民音楽劇、歌とダンスのファンタジー「マジカル・ミステリー・ツアー~みんなの不思議旅行~」の上演がありました。
朗読キャストが約30名、ダンスが53名、合唱が2グループ、吹奏楽団と管弦楽団、プロのソロ歌手が4名とよさこいのグループ。総勢は170名にも及びました。
年齢層も小さいお子さんたちから高齢の方々まで幅広く、それに伴ってびっしりの観客席も老若男女。ときおり幼児の泣き声も響いているほどでした。
その舞台はどんなストーリーだったのか、覚えている限りでメモしておこうと思います。勘違いしているところもあると思いますが、ご容赦ください。
◆答えはオムニバス形式
さて30名ものキャストが登場する物語ってどんなものでしょうか。
昨年の「モモタローの大冒険」では、主人公ががおとぎ話からおとぎ話へと複数の物語世界を冒険するという設定を編み出して、大勢のキャストに役を割り振ることができました。
今回の答えは、オムニバス形式でした。「マジカル・ミステリー・ツアー」という、夢がかなう旅へと参加した4組の旅人の4つの物語。それぞれのエピソードにさまざまな登場人物がからみ、エピソードの内容に関わりのある歌とダンスが繰り広げられる壮大な舞台が作り上げられたのでした。
ところで、「オムニバス」には乗り合いバスという意味があります。そして、『マジカル・ミステリー・ツアー』といえは、もちろんビートルズの映画ですね。内容はビートルズがバスに乗ってツアーする話なんですね。
◆そのままの自分が素晴らしい
エピソードⅠは「少女うららの夢」。中学生のうららが妖精の国に赴く話です。
彼女の願望は時と想い出の妖精から魔法の力をもらうこと。そんなことが可能なのでしょうか。
すると妖精クイーンが、あえてうららにその魔法の力、時間や記憶を思い通りにする力を与えることを許しました。ただしうららを懲らしめるためだといいます。
正面のスクリーンに、魔法の力を持ったはずのうららの未来の姿が大きく映し出されます。その顔は無表情でした。うららは感情を失ってしまったのでした。
思い通りに自分の人生をコントロールする力を持ったうららにはもう悲しみはないので、楽しさだけに満ちあふれているはずです。ところが心は平板になっていたのです。悲しみがあるからこそ楽しさがあるのだから。
そのことに気づいたうららは、元の世界に戻り、元の自分を取り戻しました。そのままの自分が素晴らしいのです。
◆未来の私、今こそ頷いて
エピソードⅡは「村松希枝(きえ)の夢」。
中年女性村松希枝は、今の生活に不満があり、自分の青春時代に戻ることを希望しました。そして思い出の喫茶店で、昔の恋人との逢瀬を追体験します。
少女時代の希枝の顔がスクリーンに大きく映りました。ちゃんと若く見えるのは化粧の技術によるものだと思いました。
ところが舞台の左側に、スクリーンのその若い希枝の実物が登場したのでした。同時に中年女性の希枝も右側に存在しています。よく似ています。
もしや、親子二人でこの劇に参加したのではないかと思いました。参加者の顔を見てひらめき、このシナリオを書いたのかもしれません。だとしたらこれが市民の舞台の強みかもしれません。
だがあとでパンフレットの出演者名を見たら、二人の姓はちがっていました。
さて昔の恋人と中年女性の希枝が手を取り合って踊ります。
若き希枝が将来(現在)の希枝に語りかけました。「未来の私、今こそ頷いて」。
そして、舞台背後のおしゃべり女性たちからは、過去の男性は永遠の気になる人、という声がかかる。
希枝は自分を、過去は過去のままに、現在を肯定する気持ちを持つことができました。
◆大切な人を思い出して冒険から帰還
エピソードⅢは「クロとブチの夢」。
2匹の猫が主人公です。野良猫ブチと、飼い猫状態から脱出したクロ。2匹は革命を起こすために、またそのために見聞を広げるために旅に出るのでした。
北への旅では、北極が環境変動によって危機に瀕していること知りました。見聞を広げ、知識をもつことが大事だと認識し、続いてアフリカに向かいます。
その地でライオンキングから、お前にとって一番大事なものを見ろ、と望遠鏡を渡されます。望遠鏡を覗くと、そこに映っていたのは祖国に残した恋人猫の顔でした。
身近な人の大切さを思い出して、クロとブチは冒険から帰還したのでした。
◆自分の街に自信をもつ
エピソードⅣは「斉藤一家の夢」。
斎藤さんご夫婦と娘さんの3人の願いは、草加にゆかりのある松尾芭蕉を元禄時代から現代の草加に呼び出すこと。そして草加についての俳句を一句ひねってもらえればなおいいと考えます。
芭蕉のお墨付きが欲しい斉藤さん一家は、ちょっと自分の街に自信がないのでしょうか。多くの草加市民はそうかもしれません。
さて300年の時を超えて芭蕉と曽良が草加に現れました。草加市民はよさこいの舞やジャズダンスを見せたりして、現代草加のすばらしさをアピールします。
芭蕉と曽良はすっかり喜んでわりとあっさり元禄時代に帰還したのでした。
草加についての俳句は残してくれませんでした。まあ、フィクションとは言え、さすがに芭蕉の句はひねり出せなかったでしょうね。
でも斉藤さん一家は、芭蕉が現代の草加を楽しんでくれたことに満足しました。そして、あらためて自分の街を見直し、自信を持つきっかけになったことでしょう。
エピソードⅠとⅡは、現在も過去も、喜びも悲しみも全部ひっくるめて自分を肯定しよう、と言っているのだと思います。
エピソードⅢは、冒険の果てに一番大切なものは元々の身近なところにあったことに気づく物語、たとえば『オズの魔法使い』や『青い鳥』に通じるかもしれません。
そしてエピソードⅣは、自分の街に自信を持とうと言っていたのではないでしょうか。
この舞台全体から僕はこんな力強いメッセージを受け取りました。
「自分」と「今」と「ここ」が最高なんだよ!
これこそが人生の出発点です。
壮大な舞台を完璧にやり遂げたみなさん、お疲れ様でした。そしてありがとうございました!
※公式サイト:歌とダンスのファンタジーVI