以前から「?」、クエスチョンマーク(疑問符)が気になっています。英文字の記号なので、近代以降に日本人も使うようになったのでしょう。調べたら、尾崎紅葉の『金色夜叉』(1897年)と夏目漱石の『吾輩は猫である』(1905年)ではすでに使われています。いっぽう森鴎外の『舞姫』(1890年)には使われていませんでした(※「青空文庫」で全文表示して「?」を検索しました)。まあ「舞姫」は漢文の書き下し文みたいな文体なので、クエスチョンマークはいかにも似合いませんね。
それで今とくに目について首をひねっているのが、疑問文ではないのに「?」が使われている用法です。SNSや各種掲示板などのコメントでたくさん見かけます。
「はぁ?」
「それは○○ですよ?」
「おやおや、怪我をしても知りませんよ?」
などです。「それは◯◯ですよ?」はそのあとに続くはずの「知らないんですか?」が略されたのでしょうか。気持ちの疑問文と言えそうです。
でも「はぁ?」や「おやおや、怪我をしても知りませんよ?」のような例だと疑問の気持ちが潜んでいるようには感じられません。
そこで仮説ですが、このような場合の「?」はおそらく文末を上げるというイントネーションの指定なのではないかと思われます。
「はぁ」にクエスチョンがつくかつかないかで比べてみましょう。
「はぁ」
これは語尾下げ。
「はぁ?」
こちらは語尾上げで読んでしまいますね。
意味あいも変わります。「はぁ」(語尾下げ)は気のない返事です。「はぁ?」(語尾上げ)はけっこう怒っています。
このようにイントネーションの違いによってまるで別のニュアンスになってしまうのです。そして「?」がついても疑問の意味はないです。
もしかしたら「はぁ? 今なんつった?」という疑問文の省略形? でも正直に「今○○と言いました」と答えたらぶん殴られそうですね。
ところで「‽」という記号を見つけました。疑問符と感嘆符が重なっている記号です。「インテロバング」といって、「!」と「?」の両方の意味を兼ね備えた記号だそうです。「!?」みたいなものですね。1962年に作られたものだそうで、ちゃんと文字記号の規格に載っています。使うことはなさそうですが。
※ちなみに『ニューロマンサー』などのサイバーパンクSFの翻訳をした黒丸尚は「?」や「!」を使わなかった。伊藤計劃も。文体の美学か。
さて次回は「食った食った」問題について考えましょう。