何も見ない、何も聞かない時間がありません。読みかけの本(電子書籍を含む)も録画したテレビ番組も登録したYouTubeチャンネルもPodcast(ラジオ番組の配信)もDVDもBlu-ray Discも溜まっているし溜まり続けている。
電車に乗っていても、食事していても、ジョギングしていても、入眠しかけていても、仕事中以外は常になんらかの作品や情報などのコンテンツを摂取している。コンテンツ中毒だ。
僕は数年前まで阿波踊りの連(チーム)に入っていて、大太鼓や鉦(かね)など鳴り物を担当して熱心に練習し、お祭りやイベントに参加していた。
ある年(10年ぐらい前)、東京の大きな通りで開かれる大規模な祭りに複数の阿波踊りグループも参加する企画が立ち上がった。
阿波踊りパートをどう展開するかを考える企画会議に、各連の代表者たちといっしょに僕も参加した。企画会議を取り仕切るのは、イベント会社のプランナーかなんかの男性だった。
プランナー「今回のコンテンツですが、日本各地のお祭りをコンテンツにしたいと考えていて、阿波踊りも重要なコンテンツになると思います」
阿波踊り「それはありがとうございます」
プランナー「14時30分から14時55分まで、1丁目交差点から2丁目交差点まででコンテンツを展開していただきたいんです」
阿波踊り「なるほど」
プランナー「その場合阿波踊りはどんなコンテンツになるでしょうか」
阿波踊り「そうですね、5連が順番に流すのが一般的ですね」
プランナー「なるほどスタンダードなコンテンツですね」
阿波踊り「でもこのイベントは特別なので、阿波踊りのすごさをアピールしたい。そこで……」
プランナー「お! スペシャルコンテンツですか?」
阿波踊り「はい。5連を大きな1つの連に見立てて、一気に流して行くんです」
プランナー「おお! ナイスコンテンツ!! それで行きましょうよ!」
阿波踊り「ありがとうございます。さて先頭は各連の高張提灯が横一列に並びます」
プランナー「先頭コンテンツ、と」
阿波踊り「それに続くのが各連の華やかな女踊りたちですね」
プランナー「おお! 華やかコンテンツときましたか!」
阿波踊り「以下略になります」
プランナー「なるほどコンテンツ的にだいたいわかりました。あとですね、予算コンテンツの問題でして……以下略」
コンテンツの大安売りにあきれて、あれ以来コンテンツに気をつけている。
当時「コンテンツ」という用語はブームだったのかもしれない。
以前勤めていた制作会社は本や雑誌や映像を作っていた。苦労が多くて儲けが少ない仕事だった。その会社がプログラマーを集め出してシステムやアプリケーションの開発に注力し、儲けが少ない本や映像などのコンテンツ仕事から手を引いていった。プラットフォーム(土台)を制するものが勝つと思われていた。
ところがプラットフォームを制するのはかなり難しい。逆にその後コンテンツが重視された。キラーコンテンツを持つプラットフォームこそ優勝するのだ。コンテンツ(中身)こそ商売の要だ。
イベント屋がコンテンツという用語を連発するとき、「商売商売」という倍音が聞こえていた。
商売抜きのコンテンツじゃないと商売にならないのに。