草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

大滝詠一「A Long Vacation」の音の塊の迫力は一発録音のたまもの

没になったデモから作られた名作

大滝詠一の「A LONG VACATION 40周年記念盤」を買いました。僕は熱心なナイアガラーではないので、23,000円もする「VOX」は遠慮して通常盤です。

Road to A LONG VACATION』というボーナスCDがついてます。大滝詠一が貴重な音源を流しながら、1981年の「A LONG VACATION」にいたる3年間をひょうひょうと語る内容です。

当時各社のディレクターに提示したデモテープの7割は没になったとか、その没から「A LONG VACATION」を作ったんだという衝撃の事実。

実際にその没のデモをかけてくれます。ギターの弾き語りで、珠玉のメロディーの数々が歌われています。よくぞ没にしてくれました。

松本隆の精神状態がそのまま歌詞になった

3月21日25時30分にニッポン放送で、発売40周年記念特別番組「インタビュー・ア・ロング・バケイション 大滝詠一「A Long Vacation」ができるまで」が放送されました。

パーソナリティ:上柳昌彦、インタビュー:白川隆三(担当ディレクター)、朝妻一郎松本隆小林克也

松本隆が語った思い出はたとえばこういうもの。

1980年7月28日発売予定でオケも完成していたが、松本隆は妹の死で歌詞が全く書けなくなったため、作詞家の交代を申し出たが、大滝がいつまででも待つと言い、発売日が翌年まで延期された。

松本はショックで風景がモノクロームになってしまうほど落ち込んだ。その精神状態を歌詞にしたという。

「思い出はモノクローム 色を点けてくれ」

君は天然色」の女の子は松本の妹。そう思って聴くと耳をぶんなぐる巨大な音の壁もあいまって心が強く揺さぶられます。

ピアノ4台含む20人による一発録音

「A Long Vacation」のウォール・オブ・サウンドは極端で、「君は天然色」のイントロの全員一丸となった三連符で度肝を抜かれ、さらにリズムが変化してからの急激な音量アップにさらに圧倒されます。この音の塊の迫力は一発録音のたまものだといいます。

何年か前の何かの雑誌で、「A Long Vacation」のスタジオワークのドキュメンタリーを読んだ記憶があります。楽器がびっしり並んだ写真を見た記憶も。

検索して見つけた「Circustown.net」という音楽ブログに、いくつかの雑誌に掲載された当事者の発言を引用しつつ録音の様子を再現した文章がありました。

※「2014.03.30 - 追悼大瀧詠一」(たかはしかつみ)

大滝詠一 / 君は天然色(前編) - circustown.net

それによると「君は天然色」は、スタジオにドラム、ベース、エレキギター3本、アコースティックピアノ4台(!)、エレピ1台、パーカッション5人、アコースティックギター5人の20名のミュージシャンが集められて、全員一斉に演奏を行ってベーシックトラックを作ったというのです。

そのため楽器ごとの音が干渉しあってしまう「音かぶり」が起こり、その効果で凄まじい音圧になった。これが大滝詠一吉田保のウォール・オブ・サウンドの秘密なのだそうです。大滝が長年研究してきたフィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」。そのナイアガラ流がここに完成したのでした。

しかもこの一発録音は一発OKだったというのです!

決してスタジオワークで楽器ごとにエフェクターを調整しまくって音の壁に仕立て上げたものではなかったんですね。一回きりのライブだったのです。そう思って改めてCDで「君は天然色」を聴くと、ライブの緊張感がビンビン伝わってきます。

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