9月24日(土)、草加のアコスホールで「そうかバンドフェスティバルVol.1」が開催された。
出演アーティスト11組、6時間におよぶコンサートだった。
このイベントの母体は、調布(東京都)で開催されている「ちょうふバンドフェスティバル」だ。キャッチコピーは「社会人バンドの発表会」。
今年7月に第14回が行われ、なんと約7時間で18組が出演する大イベントになったようだ。
そのイベントの草加出張版のような形で、今回「そうかバンドフェスティバル」が開かれた模様。
以下、とくに気になったバンドについて書いていこう。
fujimi-guys--キラキラした80年代のバンドサウンド
fujimi-guysは9人編成。ボーカルが5人(うち女性が2人)もいて、ずら~っとステージに立つ姿が壮観。メインボーカルが曲ごとに入れ替わり、それぞれの個性(クセ)を思う存分表現していた。
演奏曲は、CHAGE and ASKA、八神純子、ゴダイゴ、ORIGINAL LOVEなどの曲のカバー。キラキラした音で、80年代のバンドサウンドを思い出した。
キーボード担当が井坂治さんといって、そうかバンドフェスティバルと、母体となったちょうふバンドフェスティバルのプロデューサーである。井坂さんはこの日TWDOOBというバンドでもキーボードを弾いていた。
ボーカルのTAKAKOさんとYUKOさんも複数バンドの掛け持ちをしていた。
バンドの掛け持ちって、大学の軽音楽部を思い出す。ちょうふバンドフェスティバルとは、大人の軽音楽部なのかもしれない。
参考動画:【fujimi-guys】パープルタウン(Cover)@SBF01(そうかバンドフェスティバルでの演奏)
お玉バンド--MCでのギャップも含めてプロフェッショナルなエンタメ
お玉バンドは親子だっていうからすごい。ギターがお父さんでボーカルが息子。お父さんは長髪と髭とサングラスで、バンドマンのなれのはてみたいなオーラが漂う。息子はガタイが大きくちょっと耽美的なムード。
オリジナル曲のバックトラックを流しながら、ギターとボーカルの華麗なテクニックを披露する。
ボーカルは氷室京介とかB'zとかにも似たちょっとしゃくれた節回しで、なかなか男前な歌い方……、のはずが、MCで脱力してしまった。ちょっと北関東の訛り。高い声で早口でおどおどした感じなのだ。歌ってるときは大物っぽいけど、MCでは小物感丸出し。なんだ怖い人じゃなくていい人なんだ。
そのギャップも含めて、素晴らしいステージパフォーマンス。オリジナル曲の組曲的構成力もすごいし、エンタメとしてプロフェッショナルだ。
参考動画:不埒な衝動 / お玉バンド
CROSSROAD--ウエストコーストロックで青い三角定規
CROSSROADはアコースティックギターのストロークが効いている。また女性1人と男性2人がコーラスで頑張っているところも特徴。伸びやかなサウンドはアメリカのウェストコーストロックみたいだ。CSN&Yとか。
オリジナル曲は意外とウェットなメロディーと歌詞で、女性ボーカリストがメインになると、70年代のフォークグループ、青い三角定規を思い出してしまった。
参考動画:CrossRoad 横浜ハーバーライン @そうかバンドフェスティバル
Swingy Velvet--八神純子と荒井由実を同時に歌う!
Swingy VelvetはTAKAKOさんとYUKOの女性2人のデュオ、。ガット・ギターのMacchanがボサノバでサポート。ギターも歌もやたらうまい。ハーモニーがとてもきれい。
音楽的技術の高さを思う存分発揮したのが、「思い出は美しすぎて」(八神純子)と「あの日に帰りたい」(荒井由実)を混ぜて歌ったパフォーマンス。
「コード進行が同じなのでやってみました」とのこと。
1人がメインになって「思い出は美しすぎて」を歌い、2コーラス目でもう1人がメインで「あの日に帰りたい」を歌ったが、あまりに自然で曲が変わったことに気づかなかった。ついには2曲を同時に歌ってみせた。完全に1曲に溶け合っている!
参考動画:思い出は美しすぎて~あの日に帰りたい(そうかバンドフェスティバルにて)
ちなみに大滝詠一がキングトーンズのためにプロデュースした「ラストタンゴはヘイ・ジュード」という作品がある。
ポール・マッカートニーが「ラストダンスは私に」を聴きながら「ヘイ・ジュード」を作曲したというエピソードをもとに、2つの楽曲をマッシュアップしてしまったのである。
キングトーンズ - ラストダンスはヘイ・ジュード (大滝詠一プロデュース)
サイガース--これはパブ・ロックか
コンサートの最後はサイガースが務めた。男性5人と女性1人の6人組で、この日唯一の草加市をホームとするバンドだ。
草加市ではいろいろなイベントに出演するのでおなじみ。2015年の草加ミュージックフェスティバルで、アマチュアバンドの人気投票「第1回総選挙」で優勝したチーム。
前に座っていたおそらく調布から初めて草加に来た客の会話が聞こえた。
「サイガース見たことある?」
「いや初めて」
「見ておいたほうがいいよ」
「ほお、楽しみだ」
さて、以下は演奏曲目にちょこっと調べた情報を付け加えて紹介する。
1曲目めはいつものサイガースのオープニングテーマ、「Steppin'out」。突進力のあるナンバーだ。剥き出しのゴリゴリしたギターの音で、こいつらタダモノじゃないぞ、と知らしめる。
この曲は1960年代後半にエリック・クラプトンやクリームがカバーした曲だが、もともとはメンフィス・スリムが1959年にリリースしたブルース。ブルースからハードロックに変身した曲だ。
2曲めはクラッシュの「I Fought The Law」。1977年のパンク。
続いて「born to be wild(ワイルドでいこう!)」はステッペンウルフの1968年のロック。アメリカン・ニューシネマの代表映画「イージーライダー」で使用されて大ヒット。
「The Dock Of The Bay」は1968年、オーティス・レディングのソウルの名曲。
「Stand By Me」は1962年のソウル歌手ベン・E・キングの作品。
そして「Daydream Believer」。アメリカのアイドルグループ「モンキーズ」の1967年のポップ・ロック。最後のところで日本のタイマーズ(忌野清志郎)が歌った日本語歌詞が歌われる。
「僕はデイドリーム・ビリーバー。そんで彼女はクイーン」
そして「ジョニー・B.グッド」は、1958年に出たチャック・ベリーの不滅のロックンロール。
最後の「監獄ロック(Jailhouse Rock)」は、エルヴィス・プレスリーの1957年の大ヒット曲。
これらの曲の時代は1950年代から70年代。ジャンルはブルース、ソウル、パンク、ハードロック、ロックンロール、ポップ・ロックなどにまたがってるが、間違いなく各ジャンルを代表する不朽の名作たちだ。
オーティス・レディングもクラッシュもモンキーズもレパートリーにしているバンドってなかなかないだろう。だがサイガースがやると、どれも男臭いロックンロールになってしまう。
荒削りでリラックスしていてカッコつけてて、やたら(酔った)客にウケるバンド。
そういうのって「パブ・ロック」なのではないだろうか。70年代を中心にイギリスのパブで労働者たちに聴かれていた百戦錬磨のごついロックだ。
さて「ジョニー・B.グッド」を歌ったころには、ツイストやりだす客が出てきた。とうとうステージに上がって踊るスーツの男が出るほどの盛り上がりになった。
そのスーツの男は曲が終わったら一礼して降りようとしたが、メンバーが「ケンジさん、そのままそこにいてください」と、サングラスの強面に似合わない丁寧語でお願いして、ケンジさんは最後の「監獄ロック」をいっしょに歌った。
調布勢のキラキラしたサウンドや洗練されたボーカルテクニックに対し、草加代表が荒削りなパブ・ロックなのが小気味いい。
参考動画:サイガース 第11回 草加ミュージックフェスティバル