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草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

日本の響 草加の陣~会場中が熱いお祭りのパッションに

9月10日(土)14時~18時30分、草加市文化会館ホールで「日本の響 草加の陣 邦楽のパイオニア達の共演」が開催されました。

プログラム

 一噌幸弘(いっそゆきひろ)の速流笛破(笛)

 AUN&HIDE(邦楽ユニット)

 中村明一 FOREST(尺八)

 林英哲(太鼓)meets 木乃下真市(きのしたまいち)(津軽三味線

 伊藤多喜雄 - TAKiO BAND

 司会:ピーター・バラカン(音楽評論家)、田中隆文(邦楽ジャーナル編集長) 

  5月27日にここ草加市文化会館ホールで、このコンサートのプレイベント(記者会見)があり、出演者であり企画や人選にも尽力した中村明一さんがコンサートの意義を説明してくれました。

 中村さんは「革新的なことをどんどん進めてきた人たちをここに一堂に集まってもらって、歴史的なコンサートをしようという企画で始まりました」と述べていました。

jitsuni.hatenablog.com

 それからずっと待っていたこの日がついにやってきました。

 司会を務める邦楽ジャーナル編集長の田中隆文さんと音楽評論家のピーター・バラカンさんが、出演者の交代のタイミングごとに登場して、アーティストたちの紹介やエピソードを軽妙な掛け合いで披露していました。

 ピーター・バラカンさんがまず発したのは「邦楽とはなんですか?」という問いでした。バラカンさんは「邦楽とはJポップのことですよね」と言いました。たしかにそうですね。日常的な用語では、洋楽に対する邦楽という意味です。オリコンでも「邦楽シングルリリース」というように使われていますね。

 ここで使われる邦楽という言葉は日本の伝統音楽のことです。ただし田中編集長によると、ここ30年で邦楽は変わった」のだそうです。そして「変えたのがこの6組」(田中さん)。期待が高まります。

一噌(いっそ)幸弘の速流笛破。傾(かぶ)く精神を発揮

 最初に登場したのが「一噌(いっそ)幸弘の速流笛破」。

 一噌さんは「安土桃山時代より続く能楽一噌流笛方、故一噌幸政の長男」(パンフレットより)。能管、田楽笛、篠笛、リコーダー、つの笛など、古今東西あらゆる笛を駆使するテクニシャンです。

 最初は大鼓(おおつづみ)と小鼓(こつづみ)の2人を従えて、能管による能楽古典を披露しました。大鼓(おおつづみ)の甲高い金属的な音や掛声が印象的でした。ちなみに小鼓のほうが音程が低いのが面白いです。

 2曲目からそこにメンバーが3人加わりました。ヴァイオリン、ベース、タブラ(インド音楽の打楽器)です。

 7拍子など変拍子の曲で、古典邦楽的でもありジャズやクラッシックの要素もありました。

 一噌さんの笛のアドリブパートがびっくりでした。フレーズが細かい! 速い! 随所に高く強い破裂したような音が入る。ジャズのテナーサックス奏者、ジョン・コルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」と呼ばれる敷き詰めるように吹きまくる奏法を連想しました。能管という音程が不安定な特殊な笛でこれをやるためには相当の修養が必要なのだそうです。

 真面目なのかふざけているのか、同時に5本の笛を吹く場面もありました。右手と左手に2本ずつリコーダーと何か縦笛を持ち、テーブルに長い笛(ティン・ホイッスル?)が突き立てられていて、それらを同時に口に咥えて演奏するのです。ちゃんと和音やメロディーが出ていました。大喝采+大爆笑でした。

 ただし一噌さんは笑いません。ご本人は真剣な音楽的追求をしているのだと思います。

 ピーター・バラカンさんが、複数の楽器使いの先駆者としてジャズ・サックス奏者ローランド・カークを紹介してくれました。

 あとで調べたら実は一噌さんはローランド・カークを超えたい」という動機からこの技に挑むようになったそうです。そんな人だから、もしかしたらジョン・コルトレーンも意識しているのかもしれません。

 求道的で過剰、つまりやり過ぎなのが一噌さんの素晴らしさだと思いました。

 日本の伝統芸能がもともと有している種子、奇をてらい傾(かぶ)く精神を思いっきり発揮していると思いました。

参考動画:一噌幸弘IssoYukihiro/田楽ティハイDengaku-Tihai

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AUN & HIDE。邦楽は大衆芸能

 2番手はAUN & HIDE

 AUN井上良さんと井上公平さんという双子の和太鼓奏者のコンビ。HIDEさんは鳴り物奏者です。井上兄弟は鬼太鼓座(おんでござ)出身、HIDEさんは鼓童出身だそうです。そこに尺八と津軽三味線のサポートメンバーも加わります。

 基本ポジションは、良平さんと公平さんが左右に分かれてそれぞれ大太鼓や桶胴太鼓、締太鼓のセットを叩き、その中間にHIDEさん立ってチャッパを叩くという形でした。

 チャッパというのは、シンバルを小さくしたような形状の金属の打楽器です。打ち合わせたりこすり合わせたりします。そのチャッパからHIDEさんは本当に多彩な音色を叩き出します。大きく腕を振って打ったり、細かく刻んだり、2枚を微かに接触させてジーと持続音を出したり……。そうしながら華麗に舞ったり腰を低く落としたりと、目が離せませんでした。チャッパは実に自由な楽器です!

 さてAUNの井上兄弟はマルチ和楽器奏者で、太鼓のほか、津軽三味線や篠笛などもこなしていました。2人による津軽三味線対決もありました。

 2人が並んで交互に高度な技を披露するのですが、1人が喝采を浴びて勝ち誇ったような顔をすると、もう1人が不機嫌な表情を浮かべて、自分の番ではもっと派手なテクニックを披露します。

 そのうち1人が、三味線に熱中している相手の背後に回りました。何をするのかと思ったら、やおら相手の三味線の棹に手を添えて、弦を押さえたのです。そして、高音部と低音部を分担して素早い指さばきを見せたり、津軽三味線独特の手を滑らせて大きな音階移動をする動きを交代で見せたりしました。

 最初は撥(ばち)は1人でしたが、そのうち2人で同時に撥を使いました。三味線の連弾です! フォスターの「草競馬」をやったりしました。客席は笑いと手拍子が沸き起こりました。

 まさに曲芸です。邦楽の大衆芸能の側面を見たと思いました。

参考動画:AUN&HIDE LIVE 2015 (Full Live Show)

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中村明一 FOREST。プログレッシブ・ロック邦楽

 田中編集長によると、尺八の中村明一さんは高校生時代まではバンドでエレキギターを弾いていて、ノイズを愛していたそうです。そして尺八を聴いたときに「尺八のノイズはギターよりもすごい!」と魅了され、習い始めたのだとか。

 FORESTは中村さん以外に5人の編成。6弦ベース、ハープギター(ギターにハープのような弦がついている)、琴(25弦)、キーボード、そしてドラムです。

 最初は中村さんの尺八だけで、虚無僧の音楽を演奏しました。複数の音が同時に聞こえる場面が随所に現れました。森の中で風や鳥などの自然の音を聴いているような感覚に襲われました。

 FORESTの演奏では、いろいろなことが起こっていました。琴奏者の女性のどこかの民謡のような歌声、ハープギターの繊細な音色、ドラマーがディジュリドゥ(オーストラリア先住民の楽器。本来長い真っ直ぐな筒のはずが曲がりくねっていた)を吹く場面も。

 そしてプレーヤーたちがいずれも高度な演奏テクニックを有していて、高速変拍子で一斉に複雑なフレーズを吹く、叩く、弾く! ものすごい緊張感で、頭が疲労してしまいました。

 これはジャズというよりプレグレッシブ・ロックかもしれません。実際、中村明一さんは、キング・クリムゾンの「ムーン・チャイルド」や、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの「タルカス」を演奏したこともあるんです。動画サイトで見つけました。

参考動画:Magnetic Fantasy / Akikazu Nakamura FOREST 7/4,2014 LIve 中村明一・フォレスト

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木乃下真市。進化し続ける津軽三味線

 木乃下真市(きのしたまいち)さんは1986年と1987年の津軽三味線全国大会で2年連続優勝を成し遂げ、2000年津軽三味線全国大会「山田千里杯」で初代グランドチャンピオンを獲得するなど、日本の巨大な津軽三味線ピラミッドの頂点に位置するアーティストです。

 津軽じょんがら節の撥を叩きつける音はほとんど打楽器ですね。全拍にアクセントがあるので、特定の拍にアタックをつけるロックやポップスのビートと発想が異なります。太鼓の連打に通じるでしょうか。だから津軽三味線と和太鼓の競演はごく自然なのだと思います。

「カンカンカンカン!」という衝撃音が反響して後ろから聞こえてくるように感じてきて、酩酊感を催します。

 演奏が激しさを増すと拍手が起こりますが、その拍手はたいていまだ気が早くて、そのあと演奏がもっと激しくなります。

 田中編集長が言うには、津軽三味線は基本的に即興で、そして「常に変化している。常に今。師匠の真似をしてはいけない」のだそうです。つまりこれもまた進化し続ける(プログレッシブな)伝統芸術。

津軽じょんがら節/木乃下真市

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林英哲 & 英哲風雲の会。30年前から邦楽界に大きなショックを与えた

 林英哲さんは、鬼太鼓座鼓童という和太鼓の歴史にとって重要な2組の団体の創設に参加し、また世界初の和太鼓ソリストになった人です。ジャンルを超えて世界のトップアーティストと共演してきました。

 櫓に乗せられた大太鼓を叩く様子を見ると、林さんはしばしば左右の手を逆転させます。すなわち「ドコドコドコドコ」と叩くとき、たいてい「ド」が右手、「コ」が左手なのですが、林さんは時々「コドコドコドコド」と逆転させるのです。複雑で細かいフレーズでも。

 そして左右どちらでも強打が可能です。両手が利き腕になっているのでしょう。そのため撥さばきは変幻自在なのです。

 田中編集長の話で、1985年に宇崎竜童さんが林英哲さんといっしょに結成した、竜童組という和太鼓をサウンドの中心に据えたロックバンドが、邦楽アーティストたちに大きなショックを与えたというエピソードが紹介されました。この日共演した木乃下真市さんもそうだし、伊藤多喜雄さんも竜童組を見てくやしがったのだそうです。林英哲さんの影響力は本当に大きいのです。

 そして林英哲さんと木乃下真市さんのデュオが披露されました。木乃下さんが作曲した曲です。
 三味線と太鼓の掛け合いは、フルコンタクト空手の打ち合いのような、ストイックな激しさでした。邦楽は武道・格闘技との親和性が高いのではないでしょうか。

参考動画:林英哲 Eitetsu Hayashi & 木下伸市 Shinichi Kinoshita "-SHI-BU-KI-"

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伊藤多喜雄 & TAKiO BAND。被災地を思って歌えるのが民謡の良さ

 TAKiO BANDの構成は、尺八、ピアノ、ヴァイオリン、ドラム、ベース、津軽三味線が4人、コーラス、そしてボーカルが伊藤多喜雄さん。

 ほかの出演者に衣装では勝とう、とメンバー全員黒いスーツでキメてきて、「年取ったエグザイルです!」と自己紹介。

 1983年に結成したバンドです。民謡を現代の日本人に伝えるための、必然的なスタイルがこのバンドだと言えるでしょう。

 東日本大震災で被災した岩手を思って「南部牛追唄」を歌いました。また熊本地震に苦しむ人たちを思って熊本民謡を歌いました。こんなごく自然な当たり前のパフォーマンスで、聴き手の胸を打つのが民謡の良さだと思います。

 フィナーレにこれまでの出演者が勢揃いしました。

 そして演奏するのは「TAKiOのソーラン節」。TAKiO BANDの音源に合わせて日本中の子供たちが保育園や小学校でソーランを踊りました。現在のよさこい・ソーランの源流のひとつです。

 イントロの尺八の聞き慣れたフレーズが聞こえたとたんに、胸が熱くなります。

 多喜雄さん「ドッコイショ、ドッコイッショ!」

 観客「ドッコイショ、ドッコイショ!」

 多喜雄さん「ソーランソーラン!」

 観客「ソーランソーラン!」

 会場中が熱いお祭りのパッションで爆発しました。

 ちなみにここでも一噌幸弘さんの能管は炸裂していて、ついついそっちに目がいっちゃいました。

参考動画:XAC881 TAKiOのソーラン節  伊藤多喜雄 (1988)140731 HD 

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和楽器バンドやももいろクローバーZ

 パイオニアたちの切り開いた邦楽世界は新たな展開も見られます。

 詩吟出身の女性ボーカルや和楽器の師範たちで編成されたロックバンド「和楽器バンド」や、夏のコンサートで大人数の和楽器編成を起用して和のサウンドを構築した「もいろクローバーZ」などが人気を博しているのは、若い世代にも邦楽が受け入れられていることの現れではないでしょうか。 

参考動画:和楽器バンド / 「起死回生」Kishikaisei MUSIC VIDEO

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参考動画:特報「ももクロ夏のバカ騒ぎ2014 日産スタジアム大会~桃神祭~」LIVE Blu-ray&DVD

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長文失礼いたしました!