草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

尾高忠明さんの指揮は劇的なダイナミクス

 9月5日(日)、NHK交響楽団プレミアムコンサートin草加が、草加市文化会館ホールで開催されました。

管弦楽:NHK交響楽団
指 揮:尾高忠明
ハープ:吉野直子
ヴァイオリン:伊藤亮太郎
プログラム:
ロドリーゴ作曲 アランフェス協奏曲(ハープ版)
プロコフィエフ作曲 ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調 Op.63
モーツァルト作曲 交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
モーツァルト作曲 ディベルティメント  k138 (アンコール)

 16時開演ですが、15時30分から音楽評論家の奥田佳道さんが登場し「プレトーク」をしてくれました。これから演奏される曲の聞き所の解説です。すなわち……。

 ロドリーゴ作曲アランフェス協奏曲(ハープ版)は、本来ギター用の曲をハープのためにアレンジしたものですが、スペインの偉大なハープ奏者サバレタロドリーゴの共同作業であり、公式バージョンであるとのこと。

 プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番はスペイン、マドリードで初演されたのですが、ロシア生まれのプロコフィエフは、スペインで初演されることを前提にこの曲を作ったと窺える節がある。その証拠が第3楽章でスペインならではの楽器が使われるところ。さてその楽器とは?

 モーツァルト交響曲第41番「ジュピター」は、尾高忠明氏が41年前に26歳で東京フィルハーモニーを率いてここ草加市文化会館で指揮した草加と因縁のある曲目。

 尾高氏はイギリスでの活動が高く評価されていて、イギリスの音楽界では「ブリティッシュ音楽のチャンピオン」と呼ばれている。

 第4楽章で「ドレファミ」というモチーフが頻出する。これはグレゴリオ聖歌のモチーフである。

  指揮者やソリストハーピスト、ヴァイオリニスト)がステージ左から登場する通路はオーケストラの前ではなくて、ヴァイオリン群の間に通路が設けられていました。オーケストラの前はというと人が通れる余裕もないほどびっちり。人数を絞ったN響だそうですが、それでも狭いステージでした。

 それに、コンサートマスターのヴァイオリニストは、右足のつま先がステージからはみ出していましたよ。

 演奏は素晴らしかったです。アランフェス協奏曲のヴァイオリンのそよ風のような小さい音の美しさに驚きました。

 プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番は、始まって早々、トライアングルが鳴ったあと、「トン!」という高い打楽器の音が聞こえたと思ったら、ソロヴァイオリニストの伊藤亮太郎さんが演奏をやめて、右手を顔の前で立てて腰をかがめ、指揮の尾高さんも演奏を止めました。そして伊藤さんと尾高さんが舞台袖に退場しました。

 どうやらヴァイオリンの弦が切れたようでした。

 しばらくしたら両名がステージに再登場し、演奏がやり直しされました。

 さてプレトークで奥田さんが予告していた、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番で登場するスペインならではの楽器とは、フラメンコでお馴染みのカスタネットでした。

 指揮者の動きが止まるようになるときがありました。その直後に大きく両手を振りかぶって振り下ろす。劇的なダイナミクス。そうそう尾高さんは指揮棒を持っていませんでした。

 尾高忠明さんとは何者か。調べると、家族親族が揃いも揃って芸術家や学者なんですね。さらには曾祖父には富岡製糸場の初代工場長などを務めた明治期の実業家がいるし、極めつけは近代日本を代表する実業家渋沢栄一もまた曾祖父なんだそうです。

 尾高忠明さんをインターネットで検索するとたくさん動画が見つかりますが、その中でも異彩を放つのが、エルガーの「威風堂々」。テレビの年越し番組です。画面の隅に時計表示がずっと出ていて、刻々と新年への残り時間が減っていきます。尾高さんはその心理的プレッシャーをものともせず、ゆったりと堂々と指揮をし続け、ピッタリと演奏を終え、拍手喝采で新年おめでとう!となるのでした。

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