草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

普通の家がいきなり駄菓子屋だった

 草加市氷川町の住宅街、通りに面した2階建の割りと新しい住宅の玄関に「営業中」と書かれた布が下げられていました。

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 一歩退いて見上げると、居酒屋の看板がありました。でも玄関の布をよく見ると「駄菓子屋」という手描きの文字もあります。
 思い切って、玄関の引き戸をがらがらと開いてみました。
「ほんとに駄菓子屋だ!」とつい声に出してしまいました。ちゃんと駄菓子が並んでいたのです。
「いらっしゃい!」と椅子に座ったおばあちゃんが挨拶してくれました。この駄菓子屋の店主です。
「外から見たら普通の家だけど、中は本当に駄菓子屋ですね!」
「もちろん駄菓子屋だよ。まだ始めて2年だけどね。まあ座りなよ」
 おばあちゃんは酢昆布を振る舞ってくれました。
「駄菓子屋の前はここで40年居酒屋をやってたんだけど、足を怪我して閉店したんだ。もう80だよ」
「へえ、20歳は若く見えますね!」
 酢昆布を口に入れながらそんな合いの手を入れましたが、これはお世辞ではなく、ほんとに若々しいです。
 おばあちゃんは椅子に座ったまま、ポットでお茶を入れてくれました。どなたかにいただいた昆布茶だそうです。
 僕は昆布茶を飲みながら酢昆布を食べました。おっと、これはおばあちゃんの話をじっくり聴く態勢ではないか。ちなみに昆布茶と酢昆布は合います。予想どおり。
 居酒屋時代には近所のじいさん・ばあさんのたまり場だったこの場所が、今では子供たちのたまり場になったようで、壁に子供たちの寄せ書きみたいなものや写真などが貼られていました。
 それにしても、こんな閑静な住宅地に以前は居酒屋があったというのは不思議です。
「いやいや、ここは商店街だったんだよ。ずらーっと店が並んでた」
 街が変貌したんですね。日本中で起こっていることです。
 おばあちゃんは話しながら、終始手元を動かしていました。新聞の折込チラシを折って、何かを作っているのでした。商品の棚にその作品がたくさん置かれていました。
「さてと」と僕は立ち上がりました。そろそろ帰ろうかなと。
「これ持って行きなよ」とおばあちゃんはチラシを折って作ったものを差し出しました。
「何ですか?」
「ゴミ箱だよ」
 おばあちゃんは折ったものを広げました。すると平べったい箱になりました。
「テーブルに置いておく。枝豆とか食べる時にゴミを入れる。食べ終わったら入れ物ごと捨てる」
「それはいいですね。いただきます」
「そっちのもいっぱい持って行きな」
「ありがとうございます」とどっさり手に取りました。でも棚にはまだびっしりありました。
 立ち去りがてら、せっかくなので30円の「きなこちゃん」を買いました。
「兄さん、またおいでね!」
「はい。また来ます!」

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