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草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

防災講演会で片田敏孝氏は他者依存状態で防災を考えてはいけないと熱く説いた

草加 イベント

 8月23日(土)アコスホール(草加駅東口のアコスビル7階)で講演会があった。

平成26年度草加市防災まちづくり講演会 自分の命を自分で守る ~地域や家族で考える事前の防災~」というタイトルの講演会で、群馬大学教授の片田敏孝氏を招いて開かれた。

 片田氏は、釜石市で8年間防災教育を続けてきた。その成果が2011年3月11日の東日本大震災で、釜石の小中学生の99.8%が助かったいわゆる「釜石の奇跡」となって現れたことがよく知られている。

 ほぼ満席だった。年齢層は高かった。パンフレットとペットボトルのお茶が支給された。お茶は町会連合会から、熱中症対策のために提供されたとのこと。ただし公演中は飲んではいけない。

 会場の座席前方にプロジェクターが置かれていた。舞台の大型スクリーンに映像を投影しながら片田氏は講演を進めるのだ。

 だが、舞台の左側にも小型のスクリーンが設置されていた。こちらは書画カメラだ。係員がデスクで講演内容を筆記する。それをカメラで撮影してスクリーンに表示する。聴覚障害者のための補助ツールとして手話とともに使用されていた。公演中に、どんどん書きまくり、大活躍だった。

 ちなみに講演開始5分前のブザー音を「ジー」と表記していた。

 

草加は想定外の台風に耐えられるか

 講演の最初、片田氏はしきりに「おかしい」と言っていた。昨今の異常な気象の状態についてだ。

 「台風が南の方なのに北の方とか全然ちがうところで豪雨がある」と、地震津波の話題ではなく気象の話を熱く語り始めた。

 とにかく気象災害が多い。

 7月7日の台風は中心気圧規模930hPa(ヘクトパスカル)を記録したが、これは伊勢湾台風の929hPaに迫る勢いだった。

 昨年11月にフィリピン、レイテ島を襲った台風は、中心気圧が895hPaだったという。今後は850hPaを下回る、つまり前代未聞の大規模な台風が発生する可能性もある。

 片田氏が強調したことは、草加津波の心配はないが、豪雨災害は心配だということ。

草加にとっての3.11は地震でなく台風」とさえ言った。

 つまり、大型の台風が接近する。すると先行雨量であらゆる川が増水し草加が水に沈む。そこにに台風が襲いかかる……。

 草加には、関東各地から多くの川が流れ込み、また草加を囲んでいる。利根川、江戸川、中川、綾瀬川、芝川、荒川、元荒川。

 水害に苦しんできて激特事業(河川激甚災害対策特別緊急事業)で対策を講じ、成果を上げてきた草加市。だが、想定外の異常気象に、草加周辺の川は耐えられるか。

 想像すると怖くなる。

 広島市の土砂災害にも触れた。避難勧告が遅れたことが指摘されている。だが、「避難勧告が出てから逃げるのはもうやめよう」と片田氏は言う。勧告に身を委ねて行動するのはやめようと。行政は勧告を出すよりも状況情報を発表し続けるべきだ。その情報をもとに、市民が自分で行動を決定しようと。

 
◆「自分がひとりで逃げないとお母さんが死んじゃう」

 そして、いよいよ津波の話題になった。

 片田氏と言えば「釜石の奇跡」。だが「何が釜石の奇跡だ!」と片田氏は言った。たしかに小中学生の99.8%が助かった。だが結局1000人もの犠牲者が出たのであった。

 釜石市で防災教育に行き始めた当初(2004年)、釜石市は片田氏の訴えを聞いてくれなかった。そんな余裕はないと先生から拒絶された。

「今年は鍵盤ハーモニカのモデル校でたいへんなんだ」と言われたという。「鍵盤ハーモニカは生き残ったやつが吹くんだ」と言い返したという。

 だが、先生の訴えを真剣に捉えた先生方の存在により、防災教育が子供たちに浸透していった。

 この防災教育は日本中に必要である。

 たとえば南海トラフ巨大地震津波によって甚大な被害が想定される広い地域では、釜石市で活かされた教育を徹底する必要がある。

 片田氏は、リアス式海岸を有し津波の被害が予想される三重県尾鷲市での防災教育の様子を報告した。

 子供たちに防災の意識、「てんでんこ」つまり津波がきたらてんでばらばらに逃げるという精神が見事に浸透していることが伝わった。

 尾鷲市立宮之上小学校の先生と子どもたちが作った「てんでんこの歌」が紹介された。その中にこんな一節がある。

「100かいにげてもからぶりばかり それでもこんどもにげるんだ」

 津波から逃げる体験授業の映像を見ると、子供たちは本当にひたすら、真剣に走る。命がけで坂を駆け登る。

 ある小学校での片田氏の防災教育のあと、その授業を受けた小学校低学年の女の子のお宅にカメラが入った映像が紹介された。

 少女は「自分がひとりで逃げないと、お母さんが迎えにきちゃう。お母さんが死んじゃう」と話した。

 そのときにたまたまいた場所によって、家族が避難する場所が別々になるかもしれない。お父さんは「必ず迎えに行く」と話した。「だから絶対に死なないと約束しよう」と。

 少女とお母さんはふいに泣きだした。それほど真剣に話し合って約束したことは、絶対に守るだろうと思った。

「他者依存状態で防災を考えてはいけない」と片田氏は強調した。そして世代間で防災の知恵を継承し、防災を文化として根付かせること。


◆火災発生時は住民は地域人たちが自ら消火活動を

 第二部として片田敏孝氏と草加市長、田中和明氏の対談が行われた。

 まず市長は2011年3月11日のことを振り返った。被災地からの避難民の受け入れに尽力したことが改めて明らかになった。

 それを受けて片田氏が言ったことが印象的だった。

阪神大震災以降、みんな『生き残ったあかつきには』でしか考えられない」

 つまり、災害には必ず被害者と生存者が生まれる。そして自分は生き残る側である。自分が瓦礫の下にいることを誰も想像しないのだろうか。

 一番大事なのは、一人も死なないこと。草加市民が死なないことだと片田氏は訴えた。

 また、市長は震災での火災の大きな被害が想定される地域として、草加市が筆頭に挙げられるという週刊誌の記事を紹介した。木造住宅が密集する地域もある草加市にとって、その指摘は説得力があるという。また、消火活動に必要な水は、地震によって水道網がダメージを受けていたら確保できないかもしれない。

 そこで市として、草加市周辺には河川が多いという特徴を活かして、震災火災時に川の水を利用するシステムを構築するという。

 それを受けて片田氏はそのシステムを誰が使うのかと指摘した。「最大の消火効果は初期消火にある」と言った。火災発生の初期に、住民や地域の人たちが自ら消火することが大事であり、そのタイミングを逃すと取り返しがつかないことになる。

 これもまた行政からの勧告を待つことなく市民が自ら行動を決定すべきという片田氏の主張に沿ったものである。

 市長が「草加市周辺には河川が多い」と言い始めたとき、講演冒頭の「草加にとっての3.11は地震でなく台風」という片田氏の恐ろしい指摘を思い出した。てっきり草加市にとってのその重要課題を市長自らテーマするのかと思ったが、追究することなく終わったのが少々残念だった。

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※8月31日(日)に綾瀬川左岸広場を中心に大規模な防災訓練があります。

平成26年度 埼玉県・草加市総合防災訓練(第35回九都県市合同防災訓練) - 埼玉県ホームページ