草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

「わからないのは君たちが悪い、ではだめ。わかっていただくことが大事」と人間国宝は語った。

9月15日(日曜日)「日本の響 草加の陣」が開催された。第4弾だ。

司会の『邦楽ジャーナル』編集長、田中隆文さんがこう言った。「草加といえば草加松原

もうひとりの司会は女優の紺野美沙子さん。彼女は「草加と言えばせんべい。そして追手風部屋」と、草加市内にある相撲部屋を挙げた。相撲好きで、元祖「スー女」と言われる紺野さんらしいコメント。

このコンサートの発案者が紹介された。草加市文化会館館長の山崎大樹さんと尺八奏者で音楽プロデューサーの中村明一さん。

山崎さん「平成27年に着任したとき、東京オリンピックパラリンピックが決まった。そこでオリンピックを愛でるイベント、草加の景観にふさわしいイベントを開きたいと思った」

中村明一さん「邦楽は盛り上がり始めている。伝統的な人、人間国宝もいるし、若い人もいる」

 

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日本の響のプログラム。

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和太鼓グループ彩 -sai-

出演者のトップ、盛り上げ役を担うのは9人の若い男性のグループ、「和太鼓グループ-彩-」

巨大なやぐら太鼓、長胴太鼓(いわゆる大太鼓)、締太鼓、担ぎ桶胴太鼓など、演目によっていろいろな太鼓が繰り出されてどんどん配置が変化する。

客とのコールアンドレスポンスも執拗に要求する。煽る。

2005年東大のサークルとしてスタートしたが、母体は桐蔭学園高等学校和太鼓部OBだそうだ。2013年にプロになった。「楽しいが響き渡る」がキャッチフレーズ。

太鼓が横1列に並んで演奏する演目ではまるでダンスのような振り付け。また両隣の太鼓に手を伸ばして叩く演出ってのはよくあるが、このグループは太鼓の配置がちょっと離れているから、撥を届かせるように上体を大きく傾けなければならない。激しい上体の揺れの連鎖。中央に向かって左右から寄せてくるのもあった。

「祭りだ祭りだお祭りだ」という演目は、阿波おどり風の平太鼓、担ぎ桶胴太鼓という、動ける太鼓とチャッパがステージを暴れる。

※参考動画

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浅野祥(しょう)

浅野祥さんは津軽三味線全国大会(弘前市開催)の最高峰A級部門において14歳で初優勝。以後連続優勝し、16歳で3連覇達成! 殿堂入り。

田中隆文さんが、14歳から知っているという。14歳から同じ顔とも。たしかに童顔。
「迫力と小さい繊細な音色を聴いてほしい」と言った。

津軽よされ節。持続音が長い。右手の撥の振りが大きい。左手(つまり弦を押さえる手)の指だけで、細かく正確に弾く奏法も多用される。見事な技には拍手が起こる。

1曲目のあとのトーク。「曲の途中の拍手は大歓迎です。拍手のポイントを自分から言います。同じフレーズをしつこく弾いたら拍手です。師匠は「拍手が来るまでやめるんじゃねえぞ」と言ってました」

ジャズドラマーである草加市文化協会の長谷部健一さんが「ドラム・ソロもそう」と隣の席で話してくれた。

女工さんの民謡を歌った。高い心がこもった歌。「この歌には70年前のことが残されている」

そしてなんとアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」を演奏した。アルゼンチンタンゴだ。ギターのような響きだった。

浅野さんは、小さいときは三味線を習っていることを友達に隠していたといいう、だが小学校のとき津軽三味線大会で優勝して新聞に載ったら、教室で演奏させられた。津軽じょんがら節をやったら、しばらく「かつお節」と呼ばれるようになった。

津軽じょんがら節は自由度が髙い。ジャズのような曲。音色の変化、メリハリ、音の大小、打撃音も多彩だ。

※参考動画

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※参考までにギターで演奏されたリベルタンゴ。三味線版のニュアンスがこれに近い。

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※本来のアコーディオン版はこんな感じ。

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幕間で田中隆史さんが変わったことをした。リコーダーの吹口を切ったら尺八になるというのだ。内ポケットからまず普通のリコーダーを出して実演した。次にまた内ポケットから尺八リコーダーを出して演奏した。表情が変わった。音も変わった。尺八はプリミティブな不安定な楽器だ。だからいろいろな表現ができると言った。

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辻本好美 

尺八は個人差が出やすい、いろんな表現ができると語る辻元好美さんは、東京藝術大学で学び、琴古流という古い流派の先生に師事したという。だがこの日の演奏はモダンだった。ピアノ、ベース、パーカッションがバックについた。

ソニーからデビューしたきっかけは、マイケル・ジャクソンの歌をYOUTUBEに上げたからだという。世界中から、あれはいったいなんという楽器だと驚かれた。息遣い、情熱、それはマイケル・ジャクソンの声そのもの。

スキャットマン」も演奏した。クールなはずの曲を激しい曲にしてしまった。

司会の田中さんが、尺八人口が世界で増えていると話した。オーストラリアなど顕著だとか。邦楽の中で尺八がいちばん伸びているのだそうだ。邦楽の弦楽器や打楽器に比べて、尺八がいちばん癖が強いかもしれない。 だからこそその魅力が世界に伝わるのだろう。

※参考動画

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OKI DUB AINU BAND 

OKI DUB AINU BANDアイヌOKIさんのトンコリを中心としたバンドだ。

トンコリとはアイヌに伝わる伝統的な弦楽器だ。その形状を見て、演奏前に紺野美沙子さんがこう言った。

「新巻き鮭に似ている」

するとOKIさんはこう答えた。

「塩が効いてる!」

アイヌはかつて樺太に多く住んでいたとOKIさんが話した。すると紺野さんはトンコリ樺太に似ている」と言った。すばらしい発想!

昔は一家に一台あったのだという。普通は5弦(OKIさんは6弦にしている)。

トンコリはリズム楽器だという。ギターのようなブリッジがないので、もっぱら開放弦で鳴らす。つまり5音(あるいは6音)しか出ないのだ。

「やりくり算段の楽器です」とOKIさんは言った。すると紺野さんは「無理くり算段?」と返した。

OKIさんは、鳥の声を歌にすると語った。鳥が音楽の先生。伝統的な曲もオリジナルの曲もやった。

バンド編成はトンコリ、キーボード、ドラム。つまりロックバンド。トンコリの音数の制限から、ワンコードを貫くことになる。でも響きが変化する。トンコリは素朴な音色で残響があまりないが、不思議な倍音のようなノイズのようなものが乗っている。アンプで増幅したりエフェクターで響かせたりしがいがある楽器かもしれない。

このバンドはまた「ダブ」を打ち出している。ダブとは1970年代にレゲエの世界で起こった、リバーブやエコーなどのエフェクターを過剰に使った録音、編集、リミックスの手法だ。エフェクターの効果により、浮遊感が強調され酩酊へと誘われる。OKIのダブはリズムがダンサブルな4つ打ちが中心であるため、さらに脈動感、躍動感が加わる。野外フェスでやったら最高なやつ。アイヌ民族音楽というより、ライブで盛り上がるロックバンドそのものだと思った。

OKIさんはメンバー紹介で各楽器担当の名前を言ったあと最後に「エンジニア、内田直之!」と叫んだ。ダブではエンジニアは重要なメンバーだ。そして内田直之さんは、日本屈指のダブエンジニアだ。

※参考動画

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鶴賀若狭掾(新内節浄瑠璃/人間国宝)

鶴賀若狭掾(わかさのじよう)さんがやる「新内(しんない)流し」とは実は浄瑠璃だという。つまり一種の語り物だ。鶴賀新内(しんない)は、1750年前後に起こったそうだ。遊女の悲伝。修羅場の再現をこれから披露すると前説。切ないブルースだ。

会場の客席側から二人の女声が三味線を弾きながら登場した。

三味線は撥とピック。ピックの人は高音担当。カポタストしてる。

男が歌う、いや語る。高音ボイス。この声が人間国宝、8代目鶴賀若狭掾。

人形を使うのが浄瑠璃。新内は歌だけでやってる。

外国40箇所でやったという。しかも外国語でやったそうだ。わかるようにやる主義だと主張する。

「わからないのは君たちが悪い、ではだめ。わかっていただくことが大事」と語る人間国宝

紺野さんが「長く続けるためには何が必要ですか?」と質問した。

「体調です。からだを鍛えること、歩くこと。お酒がいちばん悪い」

人間国宝は熱い使命感を持っている。 

※参考動画

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伊藤多喜雄&TAKiO BAND(民謡)

伊藤多喜雄バンドはピアノ、ヴィオラ、尺八、三味線、ベース、ドラムの編成。ドラムのフレーズが時々和太鼓っぽいところがある。海の歌、山の歌、田の歌、それぞれ間が違う。方言なまりが歌の違いになる。土地に音楽がある。

日本各地で災害が多発している。伊藤さんは被災地に行って民謡を歌う。民謡はみんなを励ます。民謡は力を生む。

「ソーラン節が流行ったのは、ロックにしたから?」

「いえいえ民謡の底力ですよ」

伊藤さんは歌探しの旅をしている。じいちゃんばあちゃんから話を聞いている。歌う民俗学者かもしれない。 

※参考動画

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フィナーレ「空-sola-」

このイベントのプロデューサー、中村明一さんが新たに作詞作曲した「日本の響」のテーマソングが初披露された。「空-sola-」というタイトルだ。

中村明一さん「今日のために作りました。みんなで飛び立とう!」

 伊藤多喜雄バンドをバックに、草加生まれ草加育ちの民謡歌手森田彩さんがメインで歌い上げた。壮大な曲調のテーマソングができてうれしい。

さて次回2020年の「日本の響」は7月に開催されるとのこと。つまり邦楽の響きで東京オリンピックパラリンピックを迎えるのだ。

素晴らしい芸術家が集う画期的なイベントなので、みんなにぜひ来てほしい!

 席が空いているのがとても残念……。