草加小話

埼玉県草加市での暮らしで拾ったエピソードとそうでないエピソードを綴ります。

「日本の響き」で「僕達の太鼓はお客さんを笑顔にします」とヒダノ修一は語った。

 9月9日(土)、草加市文化会館ホールで、日本の響草加の陣~邦楽のパイオニア達の共演~』が開催されました。昨年につづいて、2回目でした。

 14時から18時40分ごろまでの、長く密度の濃いコンサートでした。

 さて、順に感想など述べていきましょう。

f:id:jitsuni:20170909131528j:plain

野坂操壽×沢井一恵「変絃自在」

  • 野坂操壽(箏・二十五絃箏)
  • 沢井一恵(十七絃

 最初は沢井さんによる詩の朗読からの独奏。「音の源流」という言葉が印象深かったです。まさに「音の源流」のようなプリミティブな音でした。そこから和風な音階へと移り変わっていきました。伝統的な曲目だったようです。

 続く曲は野坂さんによる「琵琶行」で、作曲はなんとゴジラ伊福部昭氏。野坂さんのために伊福部氏が作曲した作品なのです。

 右手でメロディを奏でながら、左手で和音やアルペジオを鳴らす場面もあり、ほとんどハープのようでした。バロックルネサンスの音楽を連想しました。

 3曲目は野坂さんと沢井さんの共演でした。華やかな現代曲。野坂さんの繊細さと沢井さんの力強さが印象的でした。弦を叩いて響かせる場面も。叩くと、ピアノのような音になるのでした。

 野坂さんが弾いていた二十五絃箏は弦が25本張られた箏で、野坂さん自身が開発したとのことです。そして今年は二十五絃箏が世に出て25周年だそうです。

※参考:伊福部昭:二十五絃箏曲 『琵琶行』 演奏:野坂惠子(1999)

www.youtube.com

藤原道山(尺八)

 1曲目はアメイジング・グレイス。澄み渡った音色でした。尺八の特徴であるうなりやノイズを極力減らす奏法なのでしょうか。

 尺八の音階は、は日本の民謡や童謡に通じる5音音階が基本なのですが、アメイジング・グレイスも5音音階でできているため、尺八に合う曲なのだそうです。

 ゲストにピアニスト国府弘子さんが登場し、ジャズを演奏しました。チック・コリアの「スペイン」はピアノと尺八の激しい掛け合いがスリリングでした。

 国府弘子さんの「Starland」では、尺八ならではの吹きすさぶ風のような音も聞く事ができました。

藤原道山アメイジング・グレイス

www.youtube.com

高橋竹山津軽三味線

 津軽じょんがら節で名高い初代高橋竹山から、1997年に二代目高橋竹山を襲名した女性津軽三味線奏者。

 彼女は三味線はもちろん、歌の名手でもあります。

「歌があってこその三味線、それが先代の教え」なのだそうです。

 小田朋美さんがピアノを弾きました。

 この方が衝撃的で、唄を覆い尽くすような怒涛の演奏。そして高橋竹山さんの歌は、その怒涛を乗り越える力強さでした。

ホーハイ節」では、ジャズかブルースのようなコードとビートのあるピアノを叩き出す! 高橋竹山さんの唄もジャズに聞こえました。

 それにしても小田朋美さんはすごかった。激しくて流麗。今日はこの名前を記憶に強く刻もう、と思いました。休憩時間のCD販売コーナーに彼女のCDが3枚あるのをチェックしましたが、トイレに行って戻ってきたら売り切れていました。

※「ホーハイ節」二代目高橋竹山

www.youtube.com

伶楽舎(れいがくしゃ)(雅楽

  • 舞:中村かほる
  • 笙:東野珠実、三浦礼美、五月女愛
  • 篳篥(ひちりき):中村仁美、田渕勝彦、鈴木絵理
  • 龍笛:笹本武志、角田眞美、〆野護元
  • 三ノ鼓(さんのつづみ):宮丸直子
  • 太鼓:中村華子
  • 鉦鼓(しょうこ):田口和美

 雅楽です。が3人、篳篥(ひちりき)が3人、龍笛(りゅうてき)が3人、そして三ノ鼓太鼓鉦鼓(しょうこ)の12人の管弦が中央を空けて左右に座ります。

 中央で面をつけた人が舞うのでした。

 ちなみに男性は3人で、残りは舞も含めて女性でした。

 さて、雅楽はゆったりと幽玄なものと思っていたのですが、この雅楽はリズミカルで軽快なものでした。足を高く上げたりぴょこんと跳ねたり金の蛇を持って浮かれたりしながら踊っていました。

 舞と太鼓のタイミングがぴったり一致していて、まさにダンスミュージックであることがわかりました。

reigakusha.com

藤堂輝明(民謡)

  • 藤堂輝明(民謡)
  • 根本美希(歌)
  • 中村明一(尺八)
  • 澤田勝成(津軽三味線
  • 下町兄弟(打楽器)
  • ボーイ・ウィンチェスター・ニテテ(打楽器)

 最初に中村明一さんの尺八演奏から始まりました。遅れて民謡歌手藤堂輝明さんが「刈干切唄」を歌い出しました。

「尺八のあとから歌うと夢の中で歌っているようだ」と藤堂さんは言っていました。

 というのは、民謡の伴奏の尺八は、唄に遅れながら同じメロディーを吹く(これをベタ付けというとか)のが一般的なのですが、中村さんの尺八は自由自在に唄の周りを飛び交い彩るものだったのです。

 次の曲から、自由自在ぶりはさらに激しくなっていきました。

 歌手の根本美希さん、津軽三味線澤田勝成さん、打楽器の下町兄弟さん(兄弟と名乗っていますが1人です)、打楽器のボーイ・ウィンチェスター・ニテテさん(ガーナか来ました)が加わって、それはもう陽気で革新的な民謡が繰り広げられていったのでした。曲目は「秋田音頭」「黒田節」「相撲甚句」「花笠音頭」。

「花笠音頭」を、打楽器奏者たちはテンポの速い8分の6拍子、つまりアフリカン・ポリリズムとして叩き、強烈なうねりのある楽曲に作り変えていきます。

 ただし、どんなリズムが来ても、藤堂さんはにこやかに圧倒的な迫力の声で乗りこなしたのでした。懐の深い歌手です。

EnTRANS/エントランス

 ヒダノ修一さんは、ももいろクローバーZの夏のスタジアムライブで、20人近い和楽器隊を統率して熱い夏祭りを生み出してきたのを何度も目撃してきたので、とても親しみを持っています。

 そのヒダノさんがミッキー吉野さん(キーボード)、鳴瀬喜博(ベース)さん、八木のぶおさん(ハーモニカ)と組んで生み出す音は、主旋律がハーモニカであることもあって、激しいのに温かみのあるものでした。

 また鳴瀬さんが終始笑顔で、軽やかに飛び跳ねながらベースを弾きまくるし、曲の間のMCも楽しいし、超絶技巧チームなのにアットホーム

 演目は「椰子の実」「竹田の子守唄」などの童謡や、GODIEGOの「Monkey Magic」というおなじみの曲も。

 太鼓はドラムセットのように組み上げられていました。

 大太鼓が2台、桶胴太鼓が2台立てられ、締太鼓は4個、正面の宙空に据えられて、シンバルが5台周囲に立てられていました。

 その太鼓セットを演奏するヒダノさんの姿は、和太鼓の奏法とはほど遠い。和太鼓というと、撥を頭上からまっすぐ落とすとか気合を入れるとか、空手に通じるようなストイックな感じのはずです。

 ヒダノさんはというと、常に高速回転であらゆる太鼓を叩き続けていて、まるでドラマーやラテン・パーカッショニストに見えました。

 ただし、手首や指先のコントロールで叩くドラマーと違って、太鼓の撥は腕全体で振り回すもの。全力高速回転をし続けることは常人には到底できません。ヒダノさん、ものすごいスタミナです。

 そんな地力の凄さを強調することなく、ステージはひたすら楽しい。

「昔の太鼓は客を威嚇するものでした。僕達の太鼓は笑顔にします」とヒダノさんは語っていました。

※EnTRANS-The Birth Odyssey〜Monkey Magic

www.youtube.com

フィナーレ

 フィナーレはソーラン節でした。

 ステージ上には篳篥(ひちりき)、龍笛尺八民謡歌手2名、津軽三味線2名、キーボードハーモニカパーカッション2名、ベース太鼓セット担ぎ桶胴太鼓(ヒダノ修一)の14人が立っていました。雅楽も民謡もGODIEGOもいっしょに同じステージで音楽をやっている! こういうことが起こるのが「日本の響」なんです!

 唄につづいて順番にソロを披露しました。篳篥のアドリブがソプラノサックスを吹くジョン・コルトレーンみたいでした。

 ヒダノさんのリードで観客もいっしょに「どっこいしょ! どっこいしょ!」と叫びました。

 楽しい1日でした。

「笑顔にする太鼓」、僕達も叩きたいです。